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【双葉の浅野撚糸】生きた産業教育の場に(4月5日)

2023.04.05 09:34

 双葉町中野地区の復興産業拠点で22日、岐阜県から進出した浅野撚糸の双葉事業所が開所する。糸を加工する優れた技術や繊維産業の現状を学び、ものづくりへの理解と関心を深める施設となる。地域再生を目指す町の交流人口拡大と活性化に、産業教育の場として寄与してほしい。

 浅野雅己社長は福島大出身で、本県に強い思い入れを持つ。東京電力福島第1原発事故の避難区域が設定された地域は、産業の発展に向けた大きな可能性を秘めると見込み、双葉町への新拠点整備を決めた。2階建て6800平方メートルの事業所内では、糸を撚り合わせる機械20台が稼働する現場をガラス越しに見て回れる。イベント会場やタオルの直売店、カフェなどのほか、観光バス用の駐車場も備え、学校や企業の研修旅行にも活用できる。

 同社は水溶性の糸と綿糸を使い、通常の2倍近くまで膨らむ糸「スーパーZERO」の製造で複数の特許を持つ。軽くて柔らかい特性があり、タオルに加工した際、抜群の吸水性を誇るという。自社製タオルの高級ブランド「エアーかおる」は発売以来、売り上げが1500万枚を超えるヒット商品となっている。こうした独自技術を紹介する機会を設ければ、児童・生徒のものづくりに対する夢は大きく広がるだろう。

 社業の歩みは苦難の連続だった。1976(昭和51)年の水害で数億円の損失を被った。安価な海外産に押され、2000(平成12)年ごろから、大きく売り上げを落とした。浅野社長はリストラを断行し、一時は自己破産まで考えたと明かす。家族の励ましを受けて踏みとどまり、独自の糸の開発に蓄積してきた技術の全てを注ぎ込んだ。これらの経緯をぜひ、創業希望者や他の事業所の若手社員、幹部候補に伝えてもらいたい。経営の厳しさを知る貴重な「教科書」になる。

 隣接する浪江町で1日、世界最先端の研究開発や産業化、人材育成を担う福島国際研究教育機構(F|REI、エフレイ)が開所した。実社会で通用する産業人を送り出すためには、学術的な机上の学びだけでは十分とは言えない。浅野撚糸など浜通りの企業の協力を受け、生きた経済を学ぶ場を積極的に設けるべきだ。(菅野龍太)