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【鉄路と生きる(37)】第4部 水郡線 駅存続へ周辺再開発 玉川「往来を呼び戻す」

2023.05.04 09:27
玉川村が再開発を予定している泉郷駅南側にある廃工場。駅周辺のにぎわい創出へ準備を進める溝井さん

 玉川村のJR水郡線泉郷駅南側に、古びた廃工場がある。この土地が、地域活性化の拠点へと生まれ変わろうとしてる。

 廃工場を解体して跡地に宅地や商店街を設け、駅周辺のにぎわい創出と路線の利用促進につなげる―。村は今、そんな構想を描く。5年後の実現を目指し、今年度には土地を購入する計画だ。プロジェクトを担う村地域整備課遊水地対策室長の溝井浩一さん(62)は子どもの頃から泉郷駅に親しんできた。「駅はまちの象徴。かつての活気を取り戻したい」。事業成功に懸ける思いは強い。

 本格的な車社会が到来する前の1970年代、駅周辺は人の流れが絶えなかった。駅前から村役場にかけて400メートルほど続く商店街には食堂や魚屋、酒屋、雑貨屋など多くの店が並んだ。駅を利用する通勤・通学者、来訪者らが立ち寄り、繁盛した。鉄路は家族の行楽にも欠かせなかった。「休みの日に一家で村外に出かける時には必ず列車を使った。何をするにも、駅が出発地だった」。溝井さんは往時を鮮明に思い出す。

 郊外店の進出、車の普及…。時代の移ろいとともに鉄道の利用者は減り、商店街はシャッターを下ろす店が目立つようになった。にぎわいは急速に失われていった。現在、駅で乗降するのは高校生や高齢者がほとんどだ。駅前でバイク販売店を営む小針功さん(84)は「このままでは駅の存続に関わる。生活に必要な人がいる以上、何とかしてほしい」と訴える。

 厳しい現状を打開しようと、村が動き出した。約80年前にベアリング加工として操業し、2013(平成25)年に閉鎖したままとなっていた旧駒木根工業福島工場に目を付けた。土地を購入した上で、廃工場を取り壊す計画だ。跡地に子育て世帯用の分譲地や商店街を設ける構想に加え、阿武隈川の遊水地整備に伴う村民の移転候補地としても検討を進める。

 地元商工会や村観光物産協会と連携し、カフェ開設や特産品販売などで村の魅力を発信する拠点としても活用する。駅前に菓子店を構える湯沢誠さん(59)は期待を寄せる。日頃から列車の待ち時間に焼き菓子を目当てに来店する高校生は多い。「駅の活性化に貢献できるのであれば、協力したい」と意気込む。

 鉄路の利用促進には、福島空港の最寄り駅という立地をどう生かすかも課題だ。約3キロの距離にある空港と駅を結ぶ足は確保されていない。溝井さんは「バスやタクシーなど2次交通を充実させ、利便性を高めることが必要」と話す。4月の村長選を経て新村長に就いた須釜泰一さん(63)は駅周辺の活性化を任期中の重点事業に位置付ける。「鉄路と新たな拠点を通して、人の往来を呼び戻したい」

 時代は変わっても鉄路のある風景は多くの人を魅了してやまない。水郡線の利用促進を願い、絵を通して県内外に魅力を発信し続ける人がいる。