シャープペンシルを繊細なタッチで走らせ、黒鉛の濃淡で鉄路のある風景を紡ぐ。
石川町出身の会社員佐々木麻里さん(30)=千葉県=は画家としてJR水郡線を描き続け、その魅力を発信している。青春時代、鉄道は常に生活の中にあった。今でも休日には沿線を訪れる。「水郡線に関心を寄せてもらい、利用する人が増えればうれしい」。ペンを握る手に力がこもる。
駅に足を運んで駅舎や列車を撮影し、絵を起こす。3日で仕上がる作品もあるが、駅舎の大きい郡山、水戸両駅は1カ月かかる。「絵にすることで気付く魅力がある」。線一本にまでこだわる。
高校と専門学校の5年間、磐城石川(石川町)―郡山駅間を利用した。専門学校では漫画を専攻した。卒業後、出版社などに作品を持ち込んだが、芽は出なかった。
当たり前の存在だったはずの水郡線が、人生を変える。2014(平成26)年2月。郡山駅に向かう途中、大雪のため谷田川駅(郡山市)に緊急停止した。車内に不安が広がる中、車掌がアナウンスで懸命に乗客を励ます。約6時間後に代行バスが到着した。鉄道に乗れるありがたさ、それを支える人々の強い覚悟を実感した。「自分にできることで水郡線を応援したい」。鉄道の絵を描き始めた。
約3年半後、鉄道風景画家として知られる松本忠さん(49)=埼玉県=との出会いが、さらに背中を押す。「漫画より、一枚絵の方が向いているね」。2019年3月に初の個展を開いた。
画業が軌道に乗り始めた直後の同年10月、台風19号が発生した。茨城県大子町の鉄橋崩落など路線は大きな被害を受けた。11月には郡山市で個展を控えていた。大変な時期に開催してもいいのだろうか―。悩みを取り払ったのは、親交を深めていた駅員の言葉だった。「水郡線を描けるのは佐々木さんだけだよ。日常の姿を伝えてほしい」
2021(令和3)年3月の全線運転再開を記念した列車では、ヘッドマークとラッピング車両のデザインを担当。塙、矢祭両町のツツジや紅葉などを描いた。
自ら「水郡線応援画家」を名乗る。全45駅の駅舎を描いた。矢祭町の南石井駅が特にお気に入りだ。田園風景を望む小高い丘に無人駅がある景色は「アニメのワンシーンみたい」と目を輝かせる。各地で個展を開き、ブログでも絵や写真、展示会情報を紹介している。「沿線の風景に人々の暮らしが垣間見える。ローカル線の良さを伝えていきたい」
沿線では、自転車をそのまま乗せられる「サイクルトレイン」など、新たな利用策に活路を見いだす動きもある。