若者の目線でJR水郡線の利用を増やす―。福島県側で今、そんな取り組みが本格化している。茨城県と沿線6市町でつくる水郡線利用促進会議は昨年度、若手職員を主体としたワーキングチーム(WT)を設置し、具体的なアイデアを出し合った。今年度は沿線イベントとの連携、校外学習での利用補助など実現可能な取り組みから実行に移す計画だ。
きっかけは、茨城県内の水郡線のうち、大半の区間がJR東日本公表の赤字路線に該当したことだった。
公表された収支によると、人口の多い水戸市周辺を除き、常陸大宮駅(茨城県常陸大宮市)以北で利用者が少なく、赤字だった。利用促進会議は従来、自治体の事業への経費補助などにとどまっていた。「鉄道利用に直結するような具体的な対策を講じるべきではないか」。沿線地域は危機感を強め、WTを発足させた。
招集されたのは部局を問わない20~30代の若手職員らだ。柔軟な発想で意見を出し合い、子どもから大人まで幅広い世代の恒常的な利用につながる対策を取りまとめるのが狙いだった。JR職員も参加した。
通勤、通学、観光の3テーマで班を組み、昨年10月から今年2月まで議論を重ねた。「列車通勤のメリットが浸透していないのではないか」。「穴場スポットの情報を盛り込んだモデルコースを提案してみては」。次々とアイデアが出た。思い付きで終わらないよう、必要な予算も試算した。
「工夫をすれば、もっと水郡線に乗る機会を増やせると感じた」。通学班に所属した茨城県交通政策課の岸和樹さん(30)が振り返る。通学班では大学生らを対象とした長期休暇中の運賃補助、利用者らの生の声を運行に反映させるための意見交換会の開催などを打ち出した。
WTは参加者自らも水郡線に乗車する機会となった。2月の最終発表会は常陸大子駅(茨城県大子町)近くで列車時刻に合わせて開催。関係者が鉄道を利用して集まった。
茨城県によると、赤字区間沿線の大子町などと水戸市をつなぐバス路線はなく、水郡線がこの地域の公共交通として重要な役割を担ってきた。車の普及に伴い鉄路の利用者は減少する一方だが、学生や運転免許を持たない人の生活を今も支え続けている。岸さんは「水郡線は山間部の県北地方と県庁所在地を結ぶ重要な路線。今からさまざまな利活用策に根気強く取り組み、次代へつなぐのが我々の役目」と前を向く。
福島、茨城両県ともに赤字区間を抱える水郡線。着実な利用増に向け、両県の広域連携の重要性は増している。