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【公文書館着工】適切運用に残る課題(6月3日)

2023.06.03 09:26

 県内で初めて公文書館機能を持つ郡山市歴史情報・公文書館(仮称)は来年度開館に向けて市内麓山で本体工事が始まった。市は並行して収蔵資料の展示計画検討を開始したが、適切な保存、公開には課題がある。市民の期待に応える運営体制づくりを望む。

 市は市歴史資料館が東日本大震災後、耐震面で脆弱[ぜいじゃく]性を指摘され、公文書利用の仕組みがなかったため、博物館、埋蔵文化財収蔵、公文書館の役割を併せ持つ新施設建設を決めた。公文書管理法に基づく専門施設は県内初となる。

 懸念されるのは、永久保存すべき公文書を選別する体制の不十分さだ。市は公文書等の管理指針と選別基準を定めた。指針は公文書を健全な民主主義の根幹を支える「市民共有の知的資源」と位置付け、電子データを含む公文書の作成、取得、廃棄、新施設への移管の流れを規定する。

 従来、歴史的に重要な公文書は永久保存しており、最長30年保存した後、新施設での永久保存か破棄を判断する―に改めた。市長部局はもちろん教育委員会などの外局と市議会の公文書が対象だ。総務部長ら幹部職員が選別基準に沿って判断するとしているものの、膨大な公文書から正しく選別できるのか、人事異動に伴って責任者が代わる度に判断は揺るがないか。

 公文書を評価選別する専門職として国立公文書館長が認証する「アーキビスト」という制度がある。全国に300人弱しかおらず、県内には一人もいない。郡山市は国立公文書館などの養成講座に職員を派遣し、知識技能の習得を図っているが、高度な知見が必要とされ、認証のめどは立っていない。開館後は県外のアーキビストの協力を得たい考えだが、適切な運用が保障されるか不透明だ。

 博物館、埋蔵文化財収蔵面では、現在の収蔵先である旧福良小から指定文化財などを移管することで管理体制は向上しよう。ただ、発掘調査報告書が作成されていなかったり、内容の不十分な報告書があったりして、重要資料を選別、公開できるのか不安視する声が聞かれる。公開や研究に資する分類・検索システム構築を求める専門家もいる。

 市民の宝を有効活用するため、市は年次目標を設定し、人材確保などの課題解決に努めるべきだ。(鞍田炎)