東京電力福島第1原発事故に伴い、帰還困難区域内に新たに設定する「特定帰還居住区域」について、政府は地域の実情や住民の意向を反映させながら避難指示解除に必要な除染作業などに取り組む方針を固めた。不透明感の強かった避難指示解除までの過程で、きめ細かく対応する姿勢が示された。復興を前に進める一歩と評価したい。
帰還困難区域がある双葉郡と相馬郡の6町村には特定復興再生拠点区域(復興拠点)が設けられ、今春までに全ての避難指示が解除された。復興拠点外については、福島復興再生特別措置法が今月改正され、特定帰還居住区域が正式に制度として認められた。すでに、双葉、大熊両町の3行政区の一部を指定する準備が始まっている。
こうした中、21日に開かれた原子力規制委員会で放射線防護対策の基本的考え方が検討された。解除要件を復興拠点と同様の年間積算線量20ミリシーベルト以下としたほか、除染後に何らかの原因で放射線量が高い「ホットスポット」が発生した際の柔軟な対処なども盛り込んだ。帰還生活が始まっている復興拠点と同様の放射線防護対策を基準とすることは、地元自治体や住民の安心材料となるだろう。
規制委員会の議論で、委員の一人は「従来(復興拠点)のやり方がトップダウンとすると、今回(特定帰還居住区域)はボトムアップのアプローチになる」とし、よりきめ細かな取り組みを求めた。復興拠点は住宅地、商業施設など一定の面的除染の範囲が想定しやすかったのに対し、特定帰還居住区域は住民の帰還意向などを踏まえて生活に必要な除染範囲などを決めなければならない。
政府は帰還する住民の宅地に加え、周辺の土地や道路を一体的に除染するとしている。農作業の再開を希望する住民の農地は水路をはじめ、除染対象はさらに幅広くなるだろう。原子力規制委員会の委員が指摘するように、帰還意向のある住民一人一人の要望を丁寧に聞き取り、生活実態に合わせた環境整備が欠かせない。
これは放射線防護対策に限ったことではない。不自由のない生活環境の整備に向けて自治体、住民の声を吸い上げる「ボトムアップ」の姿勢を求めたい。(安斎康史)