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【終戦の日】次世代の未来守れるか(8月15日)

2023.08.15 09:08

 他に左右されず、凜[りん]として平和と共栄の道を歩む国は今、どれほどあるだろう。中立を堅持してきた欧州2国は方向を大きく変えた。覇権を巡る大国間の争いは新興・途上国を巻き込み、世界の分断を深めてゆく。有事の国際情勢下、日本は先の大戦の教訓と不戦の誓いを揺るぎなく次代に伝えていけるのか。毎年巡る終戦の日に繰り返し問うていかねばならない。

 ロシアのウクライナ侵攻は1年半を経て苛烈さを増す。ウクライナは、ロシアが実効支配するクリミア半島への反転攻勢を続ける。米欧は殺傷力の高いクラスター弾や主力戦車などを供与して後方支援を強化する。ロシアは隣国ベラルーシに戦術核を配備して威嚇を強める。停戦、和平の入り口は依然見いだせない。

 日本は平和と戦争放棄の軸をしっかりと据えて対処していると言えるのか。岸田文雄首相は、世界の平和と国際秩序の安定に主導力を発揮するとしつつ、異次元の軍備増強にかじを切った。殺傷能力のある防衛装備品の輸出にも踏み出そうとしている。

 防衛装備移転先の候補として「同志国」が挙げられている。外交課題で目的を共有する国を指すが、定義は確立していないという。あいまいなまま、殺りくにつながる装備を他国に供与して、平和を尊ぶ国家と言えるだろうか。国会と国民不在で国の形が変質していくようで危惧を禁じ得ない。岸田首相は自身の言葉で説明を尽くすべきだ。政府、与野党の論議も厳しく見定めていかねばならない。

 日本世論調査会によると、日本が今後、戦争をする可能性があると考える国民は、30代以下の若年層で半数強に上った。若い世代の危機感は軽視できない。少子化傾向を反転させなければ、日本は立ち行かなくなるとして現政権は巨額の子育て対策を打ち出した。異次元の軍備増強と少子化対策が並び立つ国の行く先に現役、次世代は果たして平和な将来像を描けるのか。

 不透明なアジア、国際情勢への対応は必要だ。安全保障上の一定の貢献も求められるだろう。それでも、戦後78年の礎をなし崩しにしてはならない。子どもたちにどんな未来を用意すべきかに思いを寄せ、日本にふさわしい対話と外交の在り方を考えていく必要がある。(五十嵐稔)