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【鉄路と生きる(54)】第6部 阿武隈急行線 早期再開へ社員一丸 沿線自治体が費用負担で支援

2023.08.20 10:12
駅のホームやレールが復旧し、全線再開通した阿武隈急行線=2022年6月27日、福島学院前駅

 2022(令和4)年3月16日に起きた最大震度6強の福島県沖地震。第三セクター鉄道・阿武隈急行線は福島―梁川駅間で大きな被害を受けた。発生翌日、福島市の福島学院大宮代キャンパスに近い福島学院前駅に、阿武隈急行(本社・伊達市)の業務部長兼施設課長だった岩本正男さん(66)は立っていた。線路や駅のホームに損傷が目立つ。阿武隈急行線を襲う度重なる災害にぼうぜんとしつつも、覚悟を決めた。「必ず乗り越える」


 阿武隈急行は全線54・9キロで運休し、岩本さんら技術者が集まる業務部を中心に全線を点検した。レールのずれや駅舎のひび、のり面崩落など被害箇所は141カ所に上った。鉄道総合技術研究所の協力で復旧工法を検討。4月末までに梁川―槻木(宮城県柴田町)駅間で段階的に再開したが、福島―梁川駅間の復旧は見通せなかった。

 作業の障壁となったのは福島学院前―向瀬上駅間で起きた地盤沈下だった。レールを敷くための砕石の土台が沈み、レールとの間に隙間ができていた。対策として砕石を新たに積み上げ、落石しないようにレール脇に柵を設ける手法を採用した。計500メートルの長さにわたり、柵を固定するくい約700本を社員らが一本一本、打ち込んだ。「全員が早く直さなければという重圧を感じながら、必死で作業した」。現場を指揮した岩本さんは当時を思い返す。

 復旧費用は8億8千万円に上った。鉄道軌道整備法では三セクの場合、事業者が2分の1、沿線自治体と国がそれぞれ4分の1を負担する。だが、多額の負担は早期再開への足かせになりかねない。福島、宮城両県、沿線市町は協議を重ねた結果、阿武隈急行線の過去の災害時に倣い、沿線自治体が事業者負担分を担うことで一致した。福島県の担当者は「不通の福島―梁川駅間は特に利用の多い区間だった。速やかに復旧するには沿線自治体全体で支える必要があった」と強調する。

 6月27日、約3カ月ぶりに全線がつながった。現在、阿武隈急行の業務アドバイザーを務める岩本さんは「多くの人の協力で実現できた。今後も安全な運行に尽くす」と思いを強くする。


 伊達市梁川町に住む福島学院大福祉学部2年の酒井紗彩さん(20)は不通の間、宮代キャンパスに通うためJR東北線を使った。「自宅も大学も最寄り駅が離れていて、阿武隈急行線より2倍ぐらい通学に時間がかかった」という。「身近に路線があるのは本当にありがたいと実感した。今後も運行を続けてほしい」と願う。

 元の姿を取り戻した阿武隈急行線。生活路線の役割は変わらない一方、人口減やコロナ禍の影響で厳しい経営状況が続く。今後の在り方に向けて議論が始まっている。