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【鉄路と生きる(55)】第6部 阿武隈急行線 まちづくりの視点を 専門家指摘 経営改善へ議論

2023.08.21 09:56

 第三セクター鉄道・阿武隈急行線は2022(令和4)年6月、全線再開通を果たしたが、運行を担う阿武隈急行(本社・伊達市)は開業以来の岐路に立つ。度重なる被災やコロナ禍による乗客数の低迷に設備の修繕や更新時期が重なり、赤字が拡大。沿線自治体などは今年から抜本的な経営改善の議論を始めた。

 地方鉄道の経営再建に詳しい関係者は利用実態の分析に加え、沿線の人口減対策などと連動した視点の重要性を唱える。

 阿武隈急行線の乗客数、営業損益の推移は【グラフ】の通り。乗客数は、前身の国鉄丸森線よりも運行本数を増やすことで1995(平成7)年度に最多の約325万人を数えたが、直近の2022年度は約4割の約129万人に激減した。1997年度に約3千万円の黒字を計上した営業損益も、2022年度は約5億9千万円の赤字となった。

 県内を走る三セクで直近5年の赤字額を比べると、会津鉄道(本社・会津若松市)は約3~5億円、野岩鉄道(本社・栃木県日光市)は約2~3億円で推移している。阿武隈急行は2019年度まで両鉄道より赤字を抑えていたが、本県沖地震の被災による運休などもあり、2020年度以降は3社の中で最大となっている。

 開業35年を迎え、修繕費や車両更新費も重くのしかかる。近年の修繕費は年間4億円前後に上り、来年度は変電設備を更新するため約9億円に達する見通しだ。車両更新にも約5億円を要する。専務の新関勝造さん(62)は「当面の負担増は避けられない」と厳しい表情を浮かべる。

 沿線自治体などは3月から今後の輸送・経営の在り方を検討している。構成員の一人で私鉄・近江鉄道(本社・滋賀県彦根市)の構造改革推進部長を務める山田和昭さん(60)は、収支の数字の裏にある利用実態の解明が重要と説く。利用減の背景がダイヤの不便さなのか、運賃の高さなのか―。「阿武隈急行線はまだ、その確信に至っていない」と指摘する。

 その上で、鉄路を生かすためには路線の特性を踏まえたまちづくりの視点が欠かせないと強調する。公募による社長を務めた三セク・若桜鉄道(本社・鳥取県若桜町)の経営再建では観光列車の企画、鉄道施設を改修しての増便などを実現し、改善に道筋をつけた。

 阿武隈急行線は通勤・通学などの定期利用の割合が乗客の約7割を占める。沿線の人口減対策や雇用促進が、路線の利用増に直結する可能性を秘める。「鉄道の駅は居住地選択の重要な要素であり、都市計画やまちづくりと整合しているかを見る必要がある」と話す。

 ただ、福島、宮城両県で利用状況に差がある中、経営改善に向けては出資する自治体の合意形成など課題が山積する。