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【放射性廃棄物処分】問われる国の姿勢(10月2日)

2023.10.02 08:54

 原発の高レベル放射性廃棄物最終処分場の選定を巡り、長崎県対馬市は文献調査に応募しないと決めた。市民の合意形成が不十分で風評被害も懸念されるとの理由は、施設建設の多難さを浮き彫りにした。東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の県外最終処分に向けた課題が重なって見える。動向を注視していかねばならない。

 最終処分場選定の流れは、資料による文献調査、岩盤や地質の概要調査、地下施設を建設しての精密調査と続く。文献調査に応じれば最大20億円、概要調査は最大70億円が交付される。地元市町村長や知事の判断で次の調査を辞退しても、交付金を返す必要はない。地域振興が実質的に主目的であっても、応募が許容される仕組みが住民を分断する背景にあると言える。

 過疎化が進む対馬市では、産業振興や子育て支援に交付金を活用する案が浮上し、建設、商工団体からも文献調査に応募するよう要望が出ていた。一方で、調査が処分場誘致につながりかねないとの反対の声も根強かったという。

 比田勝尚喜市長は記者会見で、風評被害が出れば交付金では補えないとの懸念を示した。文献調査で適地に分類された場合、続く概要調査を断りにくくなるとも語った。調査受け入れによって市民の分断を一段と深める事態は避けたいとの発言は痛切だった。

 政府は、国が前面に立って最終処分に対処する方針を今春、決定した。原子力発電環境整備機構(NUMO)と全国を回り、最終処分場の必要性や安全性などの説明を重ねているが、文献調査に応じたのは北海道の2町村にとどまる。政府が原発回帰にかじを切ったのなら、早期に最終処分の道筋を付けるのは当然だ。対馬市民の分断を生んだ事態は国側の取り組み不足にも問題があると捉え、理解を得る活動を強める必要がある。

 環境省は大熊、双葉両町の中間貯蔵施設に保管された除染廃棄物の県外最終処分に向けた複数の案を来年度中にまとめるとしている。高レベル放射性廃棄物とは、廃棄物の性質も、施設の規模も次元が大きく異なるとしても、住民の理解や風評対策などが課題になる点では共通する。除染廃棄物最終処分の候補地選定の進め方も今から入念に検討するべきだ。(五十嵐稔)