楢葉町が産地化を目指すサツマイモ栽培は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの農業再生に向けた基幹産業の一つに成長しつつある。生産面積は年々拡大し、今年はさらに増える見通しだ。干し芋など6次化商品の開発も進む。品質に一段と磨きをかけてブランド力を高め、営農を志す人の受け入れや、観光農業化による交流人口の創出につなげてもらいたい。
大産地の茨城、千葉両県と似た気候風土にあり、収益性も見込めるとして町が2017(平成29)年、1・5ヘクタールで実証栽培を始めた。昨年産は約55ヘクタールに拡大した。長期保存処理の機能を備えた国内最大級の貯蔵施設や、農水産物の加工処理を行う特産品開発センターを整備し、付加価値を高めることで新たな市場開拓に取り組んでいる。
楢葉産サツマイモの買い取りも担う菓子製造会社(大阪府)の現地法人が大規模栽培を手がけ、転作する地元農家も増えている。JA福島さくらふたば地区の町生産部会員は45個人・団体で、発足当初の1・5倍に達する。町によると、今年産からサツマイモ栽培に乗り出す農家もある。
基腐病[もとくされびょう]の流行に伴い、全国の大産地で転作が相次ぐ中、需要はスイーツブームなどで伸びている。市場は供給不足が続き、病気が確認されていない本県産への期待は高まっているという。ただ、10アール当たりの収穫量は1・6トン程度で、全国平均の2・2トンにはまだ及んでいない。土づくりに加え、苗植え、雑草処理、収穫など適期を捉えた栽培技術の確立が急務だ。
産地化に向けては、規格や傷の有無を判定する選果場も欠かせない。えりすぐりの町産ブランドを確立して市場や消費者の評価を得られれば、安定的な農業経営が見込まれる。農家の帰還をはじめ、被災地で農業を志す人たちの移住や二地域居住の呼び水にもなり得るだろう。国は市場開拓を支える選果機能の導入を手厚く支援すべきだ。
富岡、川内両町村のワイン、広野町のバナナ、大熊町のイチゴ、浪江町のタマネギなど新たな農産物が双葉郡内に誕生している。季節に応じた収穫体験ツアーや、それぞれの産品を使った新商品開発などを推し進め、食を活用した被災地の誘客増にも結び付けてほしい。(円谷真路)