九州電力玄海原発が立地する佐賀県玄海町を対象とした、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の第1段階「文献調査」は10日、始まった。
調査を巡る動きが表面化したのは4月15日だ。旅館組合など町内3団体が町議会に出した、調査への応募を求める請願が町議会の原子力対策特別委に付託された。請願は26日の本会議で賛成多数で採択された。
5月に入ると、経済産業省は幹部を町に送り、調査を申し入れた。7日には町長・脇山伸太郎と経産相・斎藤健の会談が組まれた。斎藤は「調査は処分場選定に直結しない」と強調。調査に否定的だった脇山は会談後、持論と議会の判断との「板挟み」になったと胸中を明かし、5月10日に「住民の代表である議会の採択は重い」と調査に応じる考えを示した。
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高レベル放射性廃棄物を生む原発の立地自治体として、全国的な議論喚起を目指し調査を受け入れた玄海町だが、最終処分場の候補地となる可能性があることに複雑な思いを抱く住民もいる。脇山の表明から10日余りが過ぎた5月下旬。漁港で漁の準備をしていた男性(67)は「町民は何らかの形で原発の恩恵を受けてきた。反対とは言いづらい」と声を潜めた。交付金などによる地域振興を期待する一方、「余計な施設は持ってきてほしくない」と本音ものぞかせた。
経産省は2017(平成29)年、全国を最終処分場の適地と不適地に色分けする「科学的特性マップ」を公表。玄海町に関しては地下全域に炭田が広がり、将来的に採掘する可能性がある不適地としていた。国は町への申し入れに先立ち、原子力発電環境整備機構(NUMO)に地層の再確認を依頼した。
NUMOは、マップには石炭など鉱物が存在し得る範囲を広く示したとした上で「(玄海町には)炭田の存在が確認されていない範囲もある」との報告書を作成。経産省は「調査の実施見込みあり」と判断して申し入れに踏み切った。
一度は不適地とされながらも調査が始まった点について、請願の採決で反対した町議の宮崎吉輝はマップ自体の形骸化を指摘する。最終処分場は地下300メートルより深い岩盤に、6~10平方キロの範囲で整備される。宮崎は町面積が約36平方キロであるとして「多くの住民が暮らす真下に処分場が広がることになる」と安全性への懸念を口にする。
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文献調査に続く第2段階「概要調査」に移るためには、地元首長に加えて知事の同意が必要となる。玄海町のある佐賀県知事の山口祥義は反対の姿勢を崩しておらず、調査が進展するかは不透明だ。
文献調査に賛成派の町議の松本栄一は原発立地町の玄海でさえ、住民の間で最終処分への理解は進んでいないと指摘。国やNUMOに対して「もっと地域に入って考え方や取り組みを伝え、住民の意見を聞く努力をすべきだ」と注文する。
東京電力福島第1原発事故に伴い、福島県で発生した除染廃棄物は県外での最終処分が法律に明記されているが、処分への具体的道筋は示されていない。原発に大量に残る使用済み核燃料や溶融核燃料(デブリ)の扱いも全くの白紙だ。
松本は福島の現状も含めて「原発からの廃棄物は必ず、処分しなければならない。国は棚上げを続けてきた」と批判する。原発の問題を日本全体で考える時期に来ているとし、「地元任せではなく、国がより議論をリードしなければ物事は進まない」と語気を強めた。(敬称略)