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「大堀相馬焼に地元の原料を」復興庁 粘土や砥山石採掘調査 福島県相双地方の4カ所で

2025.01.13 10:06

 復興庁は、福島県浪江町大堀地区の国指定伝統工芸品「大堀相馬焼」に地元産の原料を使える体制を整えようと相双地方で採掘調査に乗り出した。各窯元は東京電力福島第1原発事故に伴う放射性物質や避難指示の影響で地元の粘土や鉱物を使えず、県外産を用いている。窯元の協力を得て、採取した試料を使った試作や品質の分析などを進め、製品利用の可能性を探る。軌道に乗れば生産コストの低減や工程の短縮などを見込め、被災地を代表する工芸品のさらなる振興につながるかが注目されそうだ。


 調査は陶器の素材となる粘土や、大堀相馬焼の特徴の「青ひび」を出すのに欠かせない釉薬(うわぐすり)の原料となる鉱石「砥山(とやま)石」を相双地方で確保するのが目的。復興庁は窯元ら地元の関係者への聞き取りや資料を基に南相馬、浪江、双葉の3市町の山間部で4カ所の採掘候補地を選定した。3カ所は国有林、1カ所は民有地にある。8~11日に担当者が採掘業者と各現場に入り、砥山石約60キロ、粘土約120キロを掘り出した。

 調査に協力する窯元のいかりや商店(白河市)、陶吉郎窯(浪江町)が入手した試料で湯飲み茶わんなどを制作する。造形など加工時の扱いやすさや焼き物としての耐久性、仕上がりの品質などを確かめる。2月にも作陶を始め、2024(令和6)年度内の完成を目指す。試作品は一度、細かく砕いた上で放射性物質の有無などを調べる。

 大堀相馬焼協同組合には東日本大震災と原発事故発生前まで23の窯元が加盟していたが、避難指示に伴い県内外に散らばった。組合によると、再開した7軒は大堀地区以外に工房や店舗を構えている。かつて砥山石や粘土を産出していた地域が放射性物質に汚染されるなどしたため、多くの窯元は県外から原材料を調達している。

 各窯元は粘土を焼き物の盛んな愛知県や滋賀県から取り寄せ、砥山石に代わる釉薬として5~7種類の石や鉱物を配合している。こうした努力で大堀相馬焼としての品質や特徴を守っているが、ある窯元関係者は「材料費や輸送費がかさんでいる。地元で原材料が手に入れば、経費面でもメリットは大きい」と強調する。

 いかりや商店代表の山田慎一さん(54)は2013(平成25)年から白河市で創作を続けているが、いずれは大堀地区にも拠点を設けたいと考えている。相双産の原料の活用にも前向きで「安全性を証明できれば風評払拭の機会となるのではないか」と期待する。

 復興庁は今後、地層や鉱脈の分布から埋蔵量を推定する。地元産原料の利用を促すため、焼き物の原料には定められていない放射性物質の安全基準などを示す方針。一方、軌道に乗せるには採掘から運搬までの仕組み作りや破砕機など設備面の対応が課題となる。昨年6月に大堀地区に戻った陶吉郎窯の近藤学さん(70)は「今回の調査は大堀相馬焼の復興への第1段階だ。一過性ではない支援をお願いしたい」と求めている。

 福島復興局の柳谷昭夫参事官は「産地を盛り上げるとともに、窯元の皆さんが大堀地区に戻るきっかけになれば」と話している。


※大堀相馬焼 浪江町大堀地区で300年以上前から伝わるとされる焼き物。疾走する馬の絵付けや、器の表面に細かく入った「青ひび」、保温性に優れた二重構造が特徴。1978(昭和53)年に国の伝統工芸品に指定された。