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復興、外国語で伝えたい 訪日客増で同時翻訳機導入検討 20日開館5年の伝承館(福島県双葉町)

2025.09.19 10:31
伝承館唯一の「英語語り部」として外国人に自身の被災体験を発信している泉田さん

 福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館は20日、開館から5年となる。新型コロナウイルス禍以降、インバウンド(訪日客)が増加している現状を踏まえ、海外への発信を強化する。現在、英語で講話ができる伝承館所属の語り部は1人だけ。「生の声や臨場感が伝わりきれていない」と外国人へのきめ細かな対応が課題となっている。施設は、語り部の言葉を外国語でスクリーンに映し出す同時翻訳機の導入に向けた検討に入った。関係者は「よりリアルに被災地の現状を伝えたい」と意気込む。


 アジアや欧州、南米など、さまざまな国から個人・団体が足を運び、津波と原発事故を伝える展示物を見詰める。伝承館によると、新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限が解除された2023(令和5)年度以降、インバウンドが増加し、独自に統計を始めた。2023年度は全体の4%に当たる4086人が来館。昨年度は4565人が訪問し、全体の5%を占めた。今年度は8月末時点で、全体の6%の2227人が訪れている。

 伝承館は東京電力福島第1原発の処理水海洋放出などで世界的に福島への関心が高まっている点や人が集まる行楽地を避けて観光を楽しみたい外国人も多い点などが増加の要因と分析する。

 近くでは県復興祈念公園や浜通り最大級の会議場を備えたホテルの整備が進むなど、今後も増加が見込まれる。こうした現状を踏まえ、施設は海外からの受け入れ体制の強化に乗り出した。3月から展示物の解説文を多言語化した。日本語に加え、英語、中国語、韓国語で説明している。9月からは被災地を巡るフィールドワークで英語ガイドを採用した。

 一方、被災状況や復興の現状などを来館者に直接伝える伝承館所属の語り部37人のうち、英語講話を担うのは双葉町出身の泉田淳さん(66)のみ。感情を交えて訴えかける語り部の「生の声」をどう外国人に伝えるかが課題だ。

 泉田さんは学生の頃から英語を独学で勉強。「海外の人にも経験が伝えられるように」と昨年2月から県の英語語り部育成講座を受講し、発音や伝え方の技術を学んだ。教頭を務めていた大甕小(南相馬市)で被災し、地震の揺れの恐怖、海に近い古里・双葉町両[もろ]竹[たけ]の自宅が津波で全壊した無念を打ち明け、迅速な避難の重要性を訴えている。

 昨年7月に海外の団体向けに初めて講話し、現在は約2カ月に1回、英語語り部を担当する。スライドに英文を映し、日本人に伝える以上に身ぶり手ぶりを交えて話すよう気を配る。回数を重ねる今でも「全ての意味が伝わっているのか不安。本当に難しい」と素直な思いを明かす。それでも、「必死に思いを話す姿勢をこれからも大切にしていきたい」と決意する。

 施設が導入を検討するのは、人工知能(AI)を搭載した機器。AIがその場で英訳した語り部の言葉を会場のスクリーンに映し出す仕組みだ。外国人にも語り部の思いが受け取りやすくなるとみる。

 副館長の清水一郎さん(50)は「外国人にも語り部の生の声を感じ取ってもらい、この場に来た意味を伝えていく」と意義を強調した。


■来館者累計40万人 昨年度は8万6551人

 東日本大震災・原子力災害伝承館の来館者数は【グラフ】の通り。2020(令和2)年9月の開館以降、2023年度まで毎年度増え続けた。昨年度は8万6551人で初の減少となったが、過去2番目に多い来館者数となった。

 累計の来館者数は8月に40万人を突破。見込みより3年ほど早く達成した。伝承館は復興の歩みを学ぶ「ホープツーリズム」が浸透し、県外を含む個人の来訪も多い点が目標を上回る要因になったとみている。