福島県南相馬市原町区の老舗菓子店「菓詩工房わたなべ」の4代目渡部匠さん(33)は、父幸史(たかし)さんの「夢を売る商売を」という遺志を継いで新たな一歩を踏み出す。同市小高区にあった旧店は洋菓子と洋風建築で親しまれたが、東京電力福島第1原発事故で休業。幸史さんは移転と再建、地域の復興に励む中、3年前に61歳で急逝した。修業を経て後を継いだ匠さんは4月中旬、店の隣にカフェを開く。「お菓子の魅力を伝え、小高の人が集まれる場所にしたい」と意気込む。
店は匠さんの曽祖父が約100年前に和菓子店として開業し、時代とともにパンや洋菓子に軸足を移した。3代目の幸史さんは地名を冠したシュークリーム「小高秀(おだかしゅう)」、カツ丼などを模した定食スイーツなどの独創的な品々で注目を集めた。店名を「菓詩工房」に改め、店舗も欧州風に一新した。
東日本大震災と原発事故が起きたのは改築から10年目の春だ。小高区への避難指示に伴い休業した。大学生だった匠さんは復活を願うファンの声を聞き、「長男の自分が継ぐから再開しよう」と父を励ました。幸史さんは2014(平成26)年12月に原町区の浜街道沿いに新たな店を再建。匠さんは大学を中退して専門学校で菓子を学び、静岡県の同業店やカフェで修業した。
幸史さんは家業を立て直す傍ら、仮設商業施設「東町エンガワ商店」の運営に携わるなど、避難指示区域となった小高区の再生にも力を注いだ。ただ、体調を崩して2022(令和4)年7月、道半ばで61歳で亡くなった。修業先で伴侶を得た匠さんに、長男が産まれる1カ月前だった。
匠さんは父との死別を機に、4代目を継ごうと決意した。2023年6月に妻子と帰郷し、店頭に立ちながらカフェを併設させる準備を進めてきた。昨年10月に着工した建物は旧店の家具や建具を生かし、欧州の絵本世界のような古民家風の内外観を意識している。
カフェでは定番の菓子の他、相馬野馬追にちなんだ馬のサブレーや動物にまつわるケーキ、手製のパスタやピザなども提供する予定だ。目指すのは「父が築き上げた洋菓子の世界を広げる、おとぎの国のような空間」だ。
■CFで支援募る
菓詩工房わたなべはクラウドファンディングでリニューアルへの支援を募っている。協力金に応じ、同店で利用できる商品券や菓子詰め合わせなどの返礼品を用意している。詳しくは専用サイトへ。