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憤り「事故風化招く」 東電旧経営陣無罪確定へ 福島県民「納得できない」 安全対策の責任国にも

2025.03.07 10:43
最高裁決定への悔しさを語る武藤さん(中央)

 東京電力福島第1原発事故を巡り、強制起訴された東電旧経営陣の無罪が確定する見通しとなった6日、福島県民は「最高裁の判断は事故の風化を招く」と憤りをあらわにした。上告審弁論を開き、下級審の判断を見直すよう関係者は求めてきた。しかし、その声は司法に届かなかった。


 大熊町の無職伏見明義さん(74)は、東電旧経営陣の無罪が確定することをニュースで知った。「あれだけ多くの命が失われたのに、なぜこのような結果になるのか。最高裁の判断は事故の風化を加速させるだけだ」と語気を強めた。

 2019年に古里に帰還するまで、東京電力福島第1原発事故の影響で8年間の避難生活を余儀なくされた。旧経営陣の無罪が決まっても、道義的な責任はあると考える。「東電は事故にしっかりと向き合い、二度と同じような事態を起こしてはならない」と訴えた。

 浪江町津島地区の住民が国と東電に損害賠償などを求めている訴訟の原告団長の今野秀則さん(77)=大玉村=は「今も多くの人が帰れないのに、経営陣に責任がないとは納得できない」と批判した。

 一方、双葉町からいわき市に避難している福田一治さん(53)は、最高裁の上告棄却の決定を「妥当な判断だと思う」と冷静に受け止めた。東電の対応には責任があるが、個人に刑事責任を負わせるまでには至らないと考えていたという。「想定を超える津波への安全対策の責任は国にもあると思う」と話した。


■「被害者踏みにじる」告訴団長武藤さん

 「原発事故の被害者を踏みにじる冷酷さを感じる」。東京都内で記者会見した福島原発告訴団長の武藤類子さん(71)は時折涙を浮かべながら語った。3日前にも最高裁を訪れ、十分な審理を尽くすよう署名を提出するなど、弁論を開くよう求めてきた。「最高裁の正義に一縷(いちる)の望みをかけたが、3月11日の目前にこの判決が出た。悔しくて残念」と声を振り絞った。

 代理人の海渡雄一弁護士は決定理由について「津波対策を講じるには現実的可能性がなければならないというのは信じがたい。次の原発事故は絶対に避けられない」と憤った。一方、裁判の過程では津波対策に関する東電内の議論の過程が明らかになった。「事故の真相を議論する上でかけがえのない証拠になった」と意義を強調した。

 検察官役の指定弁護士を務めた石田省三郎弁護士らも記者会見した。石田弁護士は長期評価の信用性を認めない決定は国の機関の見解を軽視すると指摘。「原子力行政におもねった不当な判断」と批判し、「検察審査会で示された決議、民意を生かせず残念だ」と述べた。


※東電旧経営陣強制起訴裁判 福島原発告訴団が2012(平成24)年6月、勝俣恒久元会長をはじめ東電の経営陣ら計33人を業務上過失致死傷罪で告訴・告発した。東京地検は2回にわたり不起訴処分としたが、検察審査会が勝俣元会長ら3人を「起訴相当」「起訴すべき」と議決、強制起訴事件になった。裁判所から指定された弁護士が検察官役を務め、双葉病院の入院患者ら44人を避難の末に死亡させたとして2016年に強制起訴した。一審は東京地裁で2017年6月に始まり、2018年に指定弁護士側が禁錮5年を求刑。2019(令和元)年9月に全員に無罪が言い渡され、指定弁護士側が控訴した。控訴審は東京高裁で2021年11月に始まり、2023年1月に再び3人に無罪が言い渡された。