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復興に向け取り組み、一歩ずつ前進 福島県富岡町の復興拠点 避難解除4月1日で2年

2025.03.31 10:42
農地を守りたいと長ネギ栽培に励む吉田さん
「子育てしやすい地域を目指して取り組みたい」と話す小池さん(左)

 東京電力福島第1原発事故に伴う富岡町の夜の森、大菅地区を中心とする特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除され4月1日で、2年となる。人々は復興に向けて取り組み、一歩ずつ前進している。解除に合わせて就農した吉田和史さん(38)は農地を広げ、新たな挑戦に乗り出す。「富岡産のおいしさを多くの人に伝えたい」と意気込む。一方、30日には子育て支援施設が拠点内で開所し、子どもたちの笑顔が広がった。


■作付け4倍、勝負の年 未来を見据え従業員雇用へ 解除に合わせ就農した吉田和史さん

 青々とした長ネギが真っすぐにたくましく育つ。就農して3年目の吉田さんは、まずまずの出来栄えに満足そうに表情をほころばせた。避難先のいわき市から復興拠点内に、毎日車で片道1時間かけて移動している。今年を農業経営を安定させる勝負の年と位置付けている。

 避難前まで建設業の仕事の傍ら、祖父の農作業を手伝っていた。本業に選んだのは、農地を大切にしていた祖父と父が数年前に避難先で相次いで亡くなったからだった。「2人の代わりに土地を守る」。そんな思いが強まった。

 手探りの農業は苦労の連続だった。土作りに欠かせない肥料の知識はほとんどなく、耕運機の動かし方も分からなかった。「できることをするしかない」。努力を重ねて水稲1・6ヘクタール、長ネギ30アールを作付けし、2年間で手応えをつかみつつあった。ただ、経営は厳しい状況が続いた。

 周辺の農地を借り、作付面積を4倍にする決断をした。収量を充実させ、多くの人に味わってもらう狙いもあった。さらに従業員を雇う予定だ。「生まれ育った場所を守り、次世代につなぎたい。これからも走り続ける」と未来を見据えて誓った。


■住民帰還へ子育て支援 ボランティア団体、施設開所

 子育て支援施設「ママコンシェルジュ サンディ」は親同士が情報を共有し、悩みを解決できる環境づくりを目指す。毎月最終日曜日に、復興拠点内にある測量会社「旭星システム」の事務所で開き、玩具レンタルや食事を無料で提供する。

 旭星システム専務の小池さや香さん(42)が代表を務めているボランティア団体が運営している。子育て世帯の頼れる場所が不足していると、小池さんが聞いたのがきっかけだった。

 初日は小学生の親子らが訪れ、弁当とパズルゲームを受け取った。小池さんは「子育てに役立つ機能の一つとなり、帰還につながる役割を担えればうれしい」と期待していた。


■1年で居住者99人増 生活環境の整備課題

 富岡町の夜の森・大菅地区を中心とする復興拠点の面積は約390ヘクタール。居住人口は3月1日現在、148世帯230人で、昨年同期と比べ、61世帯99人増えた。原発事故発生前は1697世帯3886人が住んでいた。

 町によると、区域内で出荷を前提とする農業者は8人、小売店などの事業者数は12件で、徐々に増加しているという。

 町は避難指示解除から5年後の居住人口を約1600人とする目標を掲げており、生活環境のさらなる整備が今後の課題となる。町は2027(令和9)年度に物販施設を拠点内に開所させ、その後に付近に温浴施設を整備する。