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かけがえのない土(5月15日)

2025.05.15 09:11

 土は地球最後のフロンティア(未開拓の分野)。福島国際研究教育機構(F―REI)所属の土壌学者藤井一[かず]至[みち]さんが指摘する。身近だが、謎だらけという▼岩石の風化で砕かれた砂や粘土に、腐った動植物が混ざって生まれる。構造は複雑で、さまざまな微生物の生態系が広がっている。スプーン1杯分に1万種もの細菌や菌類が息づく。自然の神秘と言えよう。新たに1センチ堆積するのに100年かかる。人類は幾[いく]代[よ]も耕作を繰り返し、命の源を育む豊かな温床をつくり上げてきた▼かけがえのない農地が今、急速に失われている。増える人口を賄うため、作物が過剰に生産されるのが要因だとか。地中の貴重な栄養が奪われ、国連によると、世界の約30%の耕地が疲弊した。生き返らすためには、微生物の力が必要―。農薬の使用を控えるよう呼びかけているが、効果はいかにだ。原発事故の除染で県内の田畑の一部は表土が入れ替わったが、今も収量が不安定だと聞く▼田植えが盛りを迎えている。田んぼは水を吸い、実りの秋に向けて活力を蓄える。改めて心に刻みたい。肥[ひ]沃[よく]な大地を生み出す最大の肥やしは人の思い。足元から湧き上がる声なき声に耳を傾けてみる。<2025・5・15>