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エディブルフラワー(6月8日)

2025.06.08 09:21

 卒業して20年ほどたつ教え子から、「とても興味深い取り組みがある」と写真が送られてきた。東京ベイエリアにあるラボの中で縦の花壇に鮮やかに咲く「エディブルフラワー」が写っていた。どの花も新鮮な野菜の甘みがあるということだった。エディブルフラワーとは、植物の花を食材として用いること、また、食用に供せられる花のことであり、食用花ともいう。食卓の彩りとして使用されるものもある。

 ラボで行われている東京ベイ実証事業は、「東京ベイeSGプロジェクト」令和6年度先行プロジェクトとして採択された。事業内容は多岐にわたるが、私がその中で着目したのは、障がい者施設での育苗から半成品生産を可能にする技術の確立、障がい者と高齢者の収穫、選定、出荷技術の確立、そして事業で収益を上げることを目指している点だ。障がい者雇用は、大手の企業には障がい者用の業務や施設はあるが、「共に働く」ということはなかなか困難だ。この事業では、障がい者によるメンテナンス管理で雇用を創出し、障がい者も高齢者も共に働き、役割がある。そして、共に植物を育てることによって、労働環境に園芸セラピーの効果があるそうだ。「オフィス空間への植物配置によるグリーンメンタルヘルスケア効果に関する実証実験」や「認知症予防のための植物栽培」の効果などのエビデンスも研究されている(ソン・キチョル『室内植物があなたを救う』)。また驚いたことに、「根」と水と光によって育つこの植物は、高温多湿、そして低温でも生き生きと葉を広げる。

 さらにこの事業者は、子どもたちが植物の生育から「生きる力」を学ぶ取り組みもしている。植物の観察や実験などを通して、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての理解を図り、科学的な見方や考え方を養うさまざまな試みを展開している。子どもたちの人格の「根」を植物によって育んでいる。家庭と地域が共に参加し、公共の施設で「花とみどりのまちづくり」を行うことで、多世代間交流によって地域コミュニティーを再生し、共に暮らす人々を元気にする活動にも取り組んでいる。

 温暖化によりさまざまな伝統行事が前倒しで行われている。高齢者や子どもたちが炎天下で畑や庭の管理をするのは、健康上、難しくなくなりつつある。しかし、植物は私たちの健康に大きく影響している。室内で人々と植物が積極的に共生することを試みるこの事業は、放射性物質によって土壌を汚染された地域にも、新たな可能性を開いてくれるかもしれない。

 教え子が送ってくれた一枚の写真にあった、室内の美しいエディブルフラワーの立体的な花壇にささまざまな可能性を想像していた時、この事業者の本社が私の故郷、愛知県豊橋市にあることを知った。小学生の頃、眺めていたあの広大なビニールハウス群が、エディブルフラワーの苗床であることを知り、この出会いに胸が高鳴った。

(西内みなみ 学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム理事長)