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【東邦銀の内部格付】産業を生む原動力に(6月10日)

2025.06.10 09:08

 景気の減速がささやかれ始め、地方経済の冷え込みが懸念される。地域金融機関に今、求められるのは、取引先とともに次代の産業を生み育てる挑戦ではないか。東邦銀行が1年余り前に取り入れた「基礎的内部格付手法」に注目したい。新たな企業評価の導入によって、事業性貸出が拡大している。こうした資金を、有効に成長の原資へとつなげる寄り添い支援の充実も必要になる。

 基礎的内部格付手法は、財務内容や将来性、経営体制などの実態を基に、金融機関自ら取引先のリスクウエート(信用度合い)を決める。東邦銀行は、金融庁が示す標準的手法を用いてきたが、2024(令和6)年3月期に、東北地方の地銀で初めて改めた。紳士服に例えれば、既製服(標準的手法)からオーダーメード(内部格付手法)への大きな変更と言える。

 金融機関は、信用力の低い企業への融資に慎重にならざるを得ない。東邦銀行は格付手法の変更で、取引先の信用度合いが改善するケースが上回った。この効果により、今年3月末の事業性貸出は約1兆7750億円となり、前年同期より約1180億円増えた。経営の健全性を示す自己資本比率(銀行単体)は10・27%で、0・92ポイント上がった。

 信用力が高まった取引先の増加で、東京電力福島第1原発事故に伴い流れ込んだ賠償金や補助金を原資とする預金の貸出幅が広がった。「金利のある世界」の中で、貸出金の増加は経営体力の強化にもつながるとみられる。

 トランプ米政権の関税政策により、輸出の減少が心配されている。内需拡大の必要性が指摘され、政府の経済対策に注目が集まっているが、国債発行を伴う景気刺激策は財政規律を一層緩める危険性を秘めている。官を過度に頼まず、金融機関と地元企業が一体で地域産業の未来像を描き、県内から集めた資金を県内への実りある投資に振り向けてほしい。

 身勝手なリーダーが日々発する朝令暮改の迷言に振り回されてはならない。地域金融機関には、サプライチェーン(供給網)を含めた経済構造の変動を的確に見抜く総合力がますます必要とされていくだろう。調査研究・政策提言のシンクタンク機能強化にも期待したい。(菅野龍太)