自民、公明両党は東日本大震災からの復興加速化に向けた第14次提言で、東京電力福島第1原発事故に伴う帰還困難区域での活動自由化を検討するよう政府に促した。区域の大半を占める森林の整備を念頭に、区域一律の立ち入り規制を個人の放射線量管理に基づく仕組みに改めることを想定している。政府は今月中にも予定される復興の基本方針改定に提言を反映させるとみられるが、安全を大前提に、地域の将来像を明確に見据えて対応すべきだ。
政府は7市町村に残る帰還困難区域について、将来的に全て解除する方針を掲げている。すでに特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除が完了し、現在は住民の帰還意思に応じて設定する特定帰還居住区域の除染などを進めているが、区域外の具体的な道筋は示していない。今回の与党提言は線量管理を「区域から個人へ」と改める考え方を打ち出しており、実現すれば帰還政策は新たな段階に入る。
活動自由化の検討に動く背景には、14年以上も手付かずとなっている森林の荒廃への危機感がある。森林は生活圏に近い場所を除き、表土除去や大規模伐採に伴う土砂災害の危険性などを理由に除染が見送られ、線量の実態さえ把握できていない。放射性物質の飛散は国の原子力政策に起因するにもかかわらず、「全て除染するわけではない」と突き放すのを割り切れない思いで受け止めてきた県民は多いだろう。
間伐などの作業が動き出せば、先人が守り継いだ山の恵みや暮らしがよみがえる望みが芽吹く。ただ、安全確保を個人の線量管理に委ねる形での活動自由化には強く反対する意見もある。今後の検討に際しては線量の基準、避難指示解除との兼ね合いなどを予断なく吟味する必要がある。併せて、安全かつ広範囲の除染に向けた技術開発の努力も欠かせない。
帰還困難区域の名称については、県内の国会議員や首長から違和感を指摘する声が相次いでいる。帰還できないという否定的な印象を与えやすい上、大部分を森林が占めることなどが理由に挙がる。来年度から5年間の第3期復興・創生期間を迎えるに当たり、地元の実態を踏まえて議論を深めたい。(渡部育夫)