福島県南相馬市小高区は、東京電力福島第1原発事故に伴う避難指示の解除から12日で丸9年が経過した。今後は人口増加が見込まれており、雇用の場を着実に創出してほしい。
原発事故発生前の2011(平成23)年2月末の小高区は人口1万2834人だった。避難解除された2016年度末は1488人で事故前の約12%、2021(令和3)年度末には約30%の3800人台に達し、その後は、ほぼ同じ水準で推移している。
一方、避難解除直後に1桁だった移住者は2022年度は32人、2023年度と2024年度はいずれも50人を超えた。市のインターネットを通じた情報発信や体験ツアー、交流会の開催などが成果を上げているといえる。小高区を拠点にしている起業支援の民間企業「OWB(旧小高ワーカーズベース)」の存在も大きい。市からの委託で手がける起業型地域おこし協力隊にUターンやIターンで参加する若者が、それぞれの夢をかなえようと活動している。
新しい住民の受け入れが増えている状況を踏まえれば、働く場の確保は、さらなる帰還、移住の促進の鍵を握る。西部地区の旧金房小跡地に整備された飯崎産業団地では、機能性吸着材とロケット部品製造の2社が工場を建設中で、地元からの雇用が期待される。国道6号沿いには小高復興産業団地の造成工事が進む。完成の前倒しを望みたい。
1次産業では水稲の育苗とキュウリの生産、集出荷を行う市設の小高園芸団地が本格稼働している。市が区内に開設した雇用就農向け育成機関「みらい農業学校」を卒業した県外の学生が、団地で操業する農業法人に就職しており、移住の受け皿になっている。市は農作物に付加価値をつける加工施設の整備も進めている。働く場の拡充で人を呼び込んでもらいたい。
移住の効果か、中学生以下の人口は、少しずつ増加している。2016年度末に62人だったが、今年6月末では218人に上る。教育・保育の無償化、給食費助成など、市全体で取り組む子育て支援策を今後も継続する必要がある。若い世代や家族向きのイベントを増やし、楽しく暮らせる地域であると発信することも重要だ。(平田団)