X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

野バラの教会(9月20日)

2025.09.20 09:06

 春の終わりから初夏に咲くバラは華やかさこの上ない。色合いが深まる秋バラはかぐわしく趣深い。白河市の白河ハリストフ正教会は間もなく、甘い芳香に包まれる。作家司馬遼太郎は「野バラの教会」と例えた▼正式名称は「生[しょう]神[しん]女[じょ]進[しん]堂[どう]聖堂」。生神女は神を生んだ女性を意味し、ハリストフ(キリスト)の母マリアを指す。信徒が資金を工面し、1915(大正4)年に「心のよりどころ」として建てた。屋根にあるタマネギ型の装飾「クーポル」がひときわ目を引く▼教会は8月から、十数年ぶりに化粧直しが進む。白壁のペンキを塗り直し、銅板製の雨どいを補修する。来週後半にシートが取り払われ、生まれ変わった姿が現れる。JR白河駅から歩いて5分余り。待ち望んだ住民からは、ため息が漏れるだろう。異国情緒にあふれる白亜の建物は、令和の今に新たな存在感を示す▼伝道を始めて今年、150周年を迎えた。信徒は1年かけて写真集を作成した。祈りに満ちた一冊には、画家山下りんが描いたイコン(聖像画)も収めている。ページをめくる。「愛とは」「幸せって何」「希望はあるか」。惨禍が絶えない中、静[せい]謐[ひつ]な聖堂が冗舌に語りかけてくる。<2025・9・20>