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【ふくしま創生臨時支局・福島県古殿町】福島県浪江町出身の佐藤博道さん 古里の森再生を 林業会社でゼロから修業

2025.09.28 11:11
作業場で丸太を切り出す佐藤さん

 面積の約8割が森林に覆われ、林業が盛んな福島県古殿町。その山中にチェーンソーの音が鳴り響く。操作するのは、浪江町出身の佐藤博道さん(39)。今年3月、古殿町の林業会社「水野林業」に入社した。伐採技術の腕を磨き、将来的には独立して浪江産の木材を使った工芸品や日用雑貨を製造・販売する夢を描く。「林業を通して浪江の森林再生と復興に貢献したい」と意気込む。


 古殿町の水野林業の作業場で作業着に身を包んだ佐藤さんがチェーンソーを使って丸太を切り出す。その後ろでは、社長の水野広人さん(38)が安全を確認しながら作業の様子を見守る。佐藤さんは、入社するまでチェーンソーを触ったことすらなかった。水野さんらベテランから学びながら今は民家や沿道から飛び出し生活に影響を与える恐れのある「支[し]障[しょう]木[ぼく]」の伐採業務を担当している。

 佐藤さんが東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を経験したのは24歳の時。震災の前年に結婚式を挙げたばかりだった。これからという時に故郷から離れることになり「現実を受け入れることができず心に穴があいたようだった」と当時を振り返る。

 二本松市での避難生活が始まった。ただ、古里への思いは強く、2017(平成29)年に避難指示が解除されてからは2カ月に1度、実家の整理などをしに浪江町に戻っていた。

 実家に帰るたびに目についたのが、誰の手も入らず枝葉が伸び切って荒れていく裏山だった。「先祖から受け継いだ森林をなんとか守れないか」と、森を管理する林業への関心が高まった。

 そんな時に声をかけたのが大学時代の友人の水野さんだった。水野さんも震災発生後、林業で地元の復興に貢献したいと東京からUターンして実家の林業会社を継いでいた。佐藤さんは当時、製造関連の会社で働いていたが、一念発起して水野さんの会社に転職した。

 佐藤さんから入社の希望を聞いた水野さんは二本松から通勤することや作業中の事故など心配はあったが、林業で浪江町に貢献したいという佐藤さんにかつての自分を重ね、応援することを決めた。

 県によると、原発事故で避難区域が設定された12市町村での2023(令和5)年の林業の素材生産量は震災前の2010(平成22)年と比較して田村市、富岡町、川内村、葛尾村を除く8市町村で減少している。特に浪江町は2023年は1332立方メートルで、2010年と比べ約1万7千立方メートル減少。町に残る帰還困難区域の約8割は山林が占め、除染は手つかずだ。森林再生の道のりは遠いが、「思い描く商品の販売が進めば、被災地の木が持つ価値を高められるかもしれない」と考える。「原発事故の影響を受けた場所での林業は簡単ではないが、生まれ育った古里のために恩返ししたい」。新しい挑戦に向けて日々学び続けている。