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除染巡り二つの基準 安全なのか、戸惑う住民【復興を問う 帰還困難の地】(42)

2021.01.03 08:06
双葉町の復興拠点で行われている道路除染。「20ミリシーベルト以下」を目指した作業が進む=2020年10月

 避難指示解除の目安となった被ばく線量「年間二〇ミリシーベルト」と、除染の長期目標の「年間一ミリシーベルト」。除染と住民の安全を巡り、ダブルスタンダードとも受け止められる状況が続く。「元に戻してほしい」。帰還困難区域の住民の多くは原発事故前と同様の生活環境を望む。いまだ行く末が不透明な古里に、さまざまな思いや苦悩を抱く。

 全国で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、多くの人が帰省や旅行を控える中で迎えた新年。双葉郡を南北に貫く常磐自動車道も例年より通行量が少ない。道路沿いの掲示板は、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域周辺の放射線量を表示している。原発事故から間もなく十年を迎える今も、住民が帰れない地が取り残されている福島の姿を物語る。

 帰還困難区域を抱える富岡、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘の六町村では特定復興再生拠点区域(復興拠点)の整備が進む。住民が再び住めるようにするため、国が除染などを行っている。

    ◇  ◇ 

 政府が定めた復興拠点の避難指示解除要件の一つに「線量が年間二〇ミリシーベルト以下に低下」がある。「二〇ミリシーベルト」の根拠とされたのが国際放射線防護委員会(ICRP)による「二〇〇七年勧告」だ。

 福島第一原発事故のような原子力災害が発生した際、「緊急事態時」には被ばくの限度を年間一〇〇ミリシーベルトから同二〇ミリシーベルトの範囲でなるべく低い線量にするように求め、事故収束後の「復旧時」は年間二〇ミリシーベルトから徐々に平常時の被ばくの限度一ミリシーベルトに戻すよう勧告している。二〇ミリシーベルトは緊急事態時の最も低い数値として、原発事故発生後の避難の目安にもなった。

 一方、政府は除染の長期的な目標として「年間の追加被ばく線量一ミリシーベルト以下」を掲げた。生涯で健康影響が明らかとなっている被ばく量一〇〇ミリシーベルトを超えないようにする目的で、二〇一二(平成二十四)年七月に閣議決定された福島復興再生基本方針に盛り込まれた。目標に例外はなく、環境省は復興拠点も長期的に一ミリシーベルト以下を目指すとしている。

 ただ、帰還困難区域の線量は原発事故の発生直後、年間五〇ミリシーベルトを超えていた。放射性セシウムの自然減衰、放射性物質が雨や風で移動するウェザリング効果などで減少傾向にあるものの、高線量地点は現在もまだら模様に存在している。

 帰還困難区域内であっても、除染に特別な手法はないのが実情だ。草刈りや落ち葉などの除去、水による高圧洗浄、建物表面の拭き取りが主な作業となっている。「除染だけで一ミリシーベルト以下を実現するのは容易ではない」。環境省の担当者は打ち明ける。

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 除染を行う最大の目的は放射線の被ばくによる健康リスクをできるだけ小さくするため-。原発事故発生後に施行された放射性物質汚染対処特別措置法の第一条に除染の意義が記されている。

 避難指示の解除基準は「二〇ミリシーベルト」だが、将来的な目標は「一ミリシーベルト」。いずれも安全性などを明確に区別する基準ではないが、除染を巡り二つの基準が共存する。年間二〇ミリシーベルトになったことで避難指示が解除された場合、その後どのような手法で速やかに一ミリシーベルト以下に放射線量を低減させるのか。政府の方針は不透明なままだ。

 住民は二つの数値基準に戸惑い、望郷の念と放射線量への不安の間で揺れる。「年間一ミリシーベルト以下でなければ安心できない」「二〇ミリシーベルトで健康に問題がないと言い切れるのか」との声が上がる。