東京電力福島第一原発事故により総面積の12%に当たる約八百五十ヘクタールが帰還困難区域となった富岡町。区域内では特定復興再生拠点区域(復興拠点)の整備が進む一方、拠点外となった約四百六十ヘクタールは除染や避難指示解除の見通しが立っていない。宮本皓一町長(73)は「着実に復興を進めるには、町全体の除染と避難指示解除が不可欠だ」と強調する。
昨年末、政府は復興拠点から外れた帰還困難区域について、人が居住しない場合に限り、未除染でも年間積算線量二〇ミリシーベルト以下になれば地元の意向に応じて避難指示を解除できる新たな仕組みを決定した。宮本町長は「全く評価していない」と一蹴する。住民の帰還に向けて、除染した上での避難指示解除が必要だとの思いがある。原発事故から十年目となった今も、政府は住民の居住を前提とした拠点外の解除方針を示していない。
たとえ長い年月を要しても将来的に全ての帰還困難区域を解除する-。町が拠点外の除染と避難指示解除を要望するたび、政府側は同じ言い回しを繰り返してきた。「いくら要望しても、らちが明かない。文言の賞味期限はとっくに過ぎている」
◇ ◇
一日も早い拠点外の除染着手を求める町に対し、環境省は昨年十二月、拠点外の主要道路沿いで二〇二一(令和三)年度から除染を始める方針を示した。道路の両側二十メートル以内を対象とし、道沿いの宅地と農地は二十メートルを超える部分も実施する内容だ。
しかし、この方針では同じ地域内で除染が行われる世帯と、主要道から外れ行われない世帯が生じる。宮本町長は「新たな分断が生じかねない」と懸念し、地域全体を除染すべきだと主張する。
町は拠点外の除染に主体的に関わることができるよう国に求めている。復興拠点では環境省が住民から除染や家屋解体の同意を得るのに時間を要し、作業が滞るケースがあった。拠点外では町が住民から除染の同意を取り付けていくことで、作業を早める仕組みとするよう国に働き掛けている。
◇ ◇
一方、町内の復興拠点は二〇二三年春の避難指示解除が予定されている。政府は「線量が年間二〇ミリシーベルト以下に低下」を解除要件の一つとしているが、町は最終的に除染の長期的な目標である「年間追加被ばく線量一ミリシーベルト以下」を達成するよう求めていく考えだ。
二〇一七(平成二十九)年四月に町内の避難指示解除準備、居住制限両区域が解除された際は、区域内の広範囲で一ミリシーベルトを超えていた。帰還困難区域では、一ミリシーベルト実現のハードルはさらに高まると想定される。宮本町長は「解除後に再除染しながら、最終的には一ミリシーベルトを目指してほしい」と訴える。
【写真】