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【ふくしま現在地】(9)「継承」 効果的な伝承法熟考 施設や企画、連携不可欠

2021.03.09 14:00
間もなく開館半年を迎える東日本大震災・原子力災害伝承館(左)。周辺には津波被害を受けた建物が残る

 東日本大震災、東京電力福島第一原発事故から十年の歳月が過ぎようとする今、記憶や教訓をどう継承していくかが問われている。県内では「東日本大震災・原子力災害伝承館」が完成し、同施設に隣接する復興祈念公園など新たな学びの場もできる。その他にもいわき市や富岡町などにアーカイブ(記録庫)施設の整備が進む。ただ、「継続的な誘客・発信に向け、展示の工夫や施設間の連携など課題は多い」と指摘する声も上がる。

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 「東日本大震災・原子力災害伝承館」は二〇二〇(令和二)年九月、原発事故で全町避難の続く双葉町に開館した。開館以来、県内外から多くの人が訪れ、二月末時点で来場者数は三万七千人に達した。

 津波で甚大な被害を受けたいわき市には二〇二〇年五月、「いわき震災伝承みらい館」が開所し、震災の被害を伝える。防災意識を高めるための教育施設としての側面も持ち、防災グッズの体験型展示や災害時の行動をクイズで楽しめるタッチパネルなどを備える。

 国と県が双葉・浪江両町に整備している復興祈念公園は二〇二五年度の開所を見込む。津波被害を受けた浪江町の請戸小は震災遺構として二〇二一年度中に整備され、富岡町アーカイブ施設も今年夏に開所する予定だ。

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 整いつつあるアーカイブ施設の中で、中核的な役割を果たす「東日本大震災・原子力災害伝承館」は、約二十四万点の資料を収蔵しており、このうち約百七十点を常設展示している。震災の被害データ、福島第一原発の状況、津波によって大きく曲がった標識、当時の県内の様子を記録した写真などが災害の姿を伝える。

 一方、有識者でつくる資料選定検討委員会や来場者からは、実物展示の充実やより詳細な解説を求める声が上がっている。

 同館の展示は、津波や福島第一原発1号機と3号機の水素爆発の様子などをまとめた約五分間の映像から始まる。その後に紹介されるのは震災による県内の被害状況や原発事故での東電の対応を示す資料など、震災後に起きたことの展示が大半を占める。震災以前に関する展示は、事故が起きる前の原発政策のあらましなど、ごく一部にとどまる。

 展示の終盤には廃炉作業の現状や福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の取り組みなど復興の足跡が紹介されている。県内の復興は日々進んでおり現状をつぶさに紹介するには定期的な展示物の見直しも必要だ。

 県と同館は三月から順次、展示内容の充実に取り組んでいる。大熊町の旧原子力災害対策センター(オフサイトセンター)にあった地形図などを新たに紹介する。館内の展示数も現行の約百七十点から、三月末までに約百九十~二百点に増やす見通しだ。

 伝承館の小林孝副館長(50)は「展示内容や方法については今後も来館者の意見を聞きながら、改善していく」と話す。スタッフによるガイドも充実させる方針だ。「震災と原発事故をさまざまな視点から伝えるため、企画展や特別展にも取り組んでいきたい」と展望を語った。

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 効果的な伝承のためには、各地のアーカイブ施設同士が連携する必要性もある。二〇一六(平成二十八)年度から県の主催、県観光物産交流協会の企画・運営で、アーカイブ施設を含む被災地を巡る旅行企画「ホープツーリズム」が、浜通りを中心とした市町村で展開されている。教育旅行先に選ぶ中学、高校が増えており、二〇二〇年度は二月末時点で六十一件、約三千人が利用した。二〇一九年に設立された東北経済連合会と青森、岩手、宮城、福島の四県などによる一般財団法人「3・11伝承ロード推進機構」は各地の伝承施設をまとめた地図の作製や被災地ツーリズムの支援を行っている。

 一方、関係者からは「アーカイブ施設同士の直接的な交流は少ない」という声も出ている。いわき市のいわき震災伝承みらい館の阿部宣之副館長は「施設ごとに展示物の特徴は異なる。保管する資料を交換して相互に企画展を行うこともできるのではないか」と語る。教育旅行についても「浜通りはもちろん中通りや会津地方の観光地とも連携し、県全体で新たな周遊ルートを開発することも必要」と話した。

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 アーカイブ施設だけでなく被災地の住民らによっても震災の記憶を継承する取り組みは行われている。双葉町などで、市町村内の「大字」単位での歴史を紹介する「大字誌」発刊に携わる同町出身の泉田邦彦さん(31)は「震災のことだけを伝えても意味がない」と危機感を抱く。「震災以前の豊かな暮らしを丁寧に伝えていくことが、失ったものの大きさを知ることにつながるはずだ」

 伝承館上級研究員で立命館大准教授の開沼博さん(36)=いわき市出身=は「展示だけに頼っては繰り返し訪れようという人が生まれづらい」と懸念する。県内のアーカイブ施設が「広島や長崎のように歴史を学ぶ場として認識されつつある」と分析し、「地域全体で人を呼び入れる仕組みを作る第一歩として、住民を巻き込む催しを施設から企画していく必要がある」と指摘した。