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【ふくしま現在地】(11)・完「被災地を守る」 十分な体制構築課題 防犯や消防、人手確保難しく

2021.03.11 19:30
浪江町内のパトロールに出発する浪江町防犯見守り隊

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から丸十年を迎えた今も、被災地を狙う犯罪は後を絶たない。警察と地元住民らが連携した防犯活動を展開しているが、住民側の人手の確保が困難なこともあり、十分な体制を構築できていないのが現状だ。全国から応援派遣される警察官や、地元消防団の団員も減少傾向にある。限られた人員の中で住民の安全をどう守っていくのか。県警や消防、住民らは懸命に知恵を絞る。

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 県警は震災と原発事故に伴い、他の都道府県警から福島県警に特別出向の形で緊急増員された警察官を集め、二〇一二(平成二十四)年二月に「ウルトラ警察隊」を発足させた。復興支援を目的に組織し、被災地の巡回や、災害公営住宅の訪問活動などに当たり、住民の安全安心の確保と犯罪抑止に努めている。

 特別出向者は被災地の復旧や治安維持につなげるため、警察庁が毎年度、期限付きで派遣する。二〇一一年度から二〇二〇(令和二)年度末までに計千七百四十九人が県警に所属。県警本部や各一線署などに配属され、被災地の最前線で活動している。中には期限となる一年の出向期間終了後、本県への思いを強くして延長を申し出たり、福島県警に転籍したりする警察官もいる。

 ただ、特別出向者は二〇一一年度の三百五十人がピークで、二〇一八年度には約半数の百七十人となった。二〇二〇年度は百三十七人で、二〇二一年度は百十一人を予定している。

 特別出向者が減少する中、県警は避難区域解除などの情勢変化に合わせ、県警本部や各警察署の人員を手厚くしている。昨年三月には、双葉、大熊両町の帰還困難区域の一部避難指示が先行解除されたのを受け、双葉署浪江分庁舎の警察官を七人増やした。県警は「現時点では十分な人員の配置ができていると考えている」と強調する。ただ、出向者は今後も減ることが想定されるため、「限られた人数の中で適した体制を考え、住民の安全安心を守り続けなければならない」とする。

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 被災地の安全を維持するためには、警察と連携した防犯ボランティアの力も欠かせない。

 ただ、住民が避難先から被災地に通う負担もあり、活動人数は減少の一途をたどる。双葉、南相馬の各警察署が委嘱する防犯ボランティアは、震災前の二〇一〇年は計十五分隊・百六十一人だったが、昨年時点で計九分隊・七十人に減っている。

 被災地で活動する住民主体の防犯組織のうち、浪江町防犯見守り隊は二〇一四年十一月に発足した。二〇一七年三月末の帰還困難区域を除く避難指示解除を前に、居宅を離れている避難者の不安を和らげようと作られた。現在は五十四人が在籍する。平日の午前十時から午後八時まで、交代勤務で帰還困難区域を含む町内をパトロールしている。須賀川市や白河市などから町内に来る隊員もいる。

 発足当初から活動している遠藤定郎さん(70)は避難先の本宮市から通う。パトロールではイノシシなどを目撃した場所や時間、倒木、ガードレールなどの破損といった被害を随時、町に報告している。帰還している町民を見掛けた際は積極的に声を掛けている。今後も古里の発展に治安面から貢献していきたいと誓う。

 「徐々にだが帰還は進んでいる。浪江に戻ってきた人に安心感や元気を与えられるよう活動を続けたい」と力を込める。

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 原発事故で避難区域が設定された県内十二市町村では消防団の団員不足が深刻化し、防災体制の構築が急務だ。県によると、十二市町村の消防団員は二〇一〇年には五千四百十二人だったが徐々に減少し、昨年十二月末時点で四千七百十七人となっている。各市町村の条例で定められた定数に対する団員数の充足率は二〇一〇年の93・3%から昨年は83・2%に落ち込んだ。

 地元に戻らず、県内外に避難している団員も多く、実際に活動している団員数はさらに少ないとみられる。災害が起きた際は避難先から向かう団員が多く、初期消火などの初動対応に影響が出るのが現状という。

 浪江町の帰還困難区域では二〇一七年四月に山林火災が発生した。消防や自衛隊などが消火に当たったが、鎮火までに平成以降で最長となる十二日を要し、消火活動や消火体制に課題を残した。区域外から機材運搬などの後方支援に当たる団員からは防災体制の見直しを求める声が上がった。復興庁と県、十二市町村は二〇一七年から消防団の広域連携の検討をはじめ、相互応援や合同訓練の在り方などの協議を進めている。

 被災地の防災体制が課題として挙がる現状に、防災対策を研究する民間機関「防災&情報研究所」(東京都)の高梨成子代表は「住民が戻らない以上、少数の限られた人だけで消防団を担うのは無理がある」と指摘する。地域全体で消防団の役割を少しずつ負担する必要があると強調し、「まちが一体となって災害に備える対策や制度を考えて取り入れるべきだ」と提言する。