新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は出口が見えず、経済の停滞は長期にわたっている。中小・零細企業、自営業者、その多くを女性が占める「非正規」労働者が直撃を受けている。十四世紀のペストや十六世紀の天然痘、一九一八年のスペイン風邪のパンデミックに比べ医療環境が整ったはずの現代社会においても制御不能に陥っている。このパンデミックは経済、社会、政治、そして文明の歴史に残る大事件だ。人類全体の大きな節目になる出来事であり、地球規模の協力体制が整わなければ対応できない。なぜ、このような事態に至ったのだろう。
二年前の四月、私は次のように書いた。「パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症。都市の封鎖や大量死が連日報じられている今、人類は大きな挑戦を突きつけられている。世界はどう変わるのか。人類はどこに向かうのか」。フランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏が「パンデミックと言う深刻な危機に直面した今こそ『他者のために生きる』という人間の本質に立ち返らねばならない。自らを感染の脅威にさらさないためには他者への感染を確実に防ぐ必要がある」「協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきだ。利他主義という理想への転換こそが人類サバイバルのカギである。利他主義は合理的利己主義にほかならない。利他的であることは、ひいては自分の利益となる」「他の国々が感染していないことも自国の利益になる。世界が栄えていれば、市場が拡大し、長期的に見ると国益につながる」と指摘していることを紹介し、「私たちも、この挑戦を受けて、次世代の利益となる行動をとろう」と訴えた。
このパンデミックからの挑戦を受けて、私たちは国際的な協力体制を構築できただろうか。医療資源を必要なところに届けているだろうか。国家やイデオロギーを超えて、すべての国が協力し、この危機を乗り越えるチャンスに、各国政府は自国の対応のみに追われていないだろうか。 この試練によって、私たち人類は同じ舟に乗っていることに気づいた。暗闇でパンデミックという嵐にもまれる舟だ。この暗闇の出口が見えず不安になるが、不安だからこそ誰もが大切で必要な存在だと理解し合える。みんなで共に舟を漕[こ]ぐように求められていて、誰もが互いに慰め合わなければならない。なぜなら、私たちみんながこの舟の上にいるからだ。
私たちは自分だけでは進めず、共に力を出し合って初めて前に進むことができる。せめて今、私たちにできることは、まず自分の心身の免疫力を上げることだ。特に心配や不安という感情に支配されないようにする。ネガティブな感情は、私たちの免疫力を著しく損ない、他者や自己への怒りに着火し、暴力や戦争までも引き起こす危険性がある。(西内みなみ・桜の聖母短期大学学長)