■「地域のために」新たな挑戦 未来を切り開く福島県の若者
東日本大震災、東京電力福島第一原発事故から3月11日で丸11年となる。未曾有の複合災害を体験した福島県民は何気ない日々の営みの大切さをかみしめながら、復興への道を歩み続けている。20年、30年後の地域の未来を見据え、「自分の力を地域のために役立てたい」と新たな一歩を踏み出す県民がいる。
■「被災地出身」肩書に負い目も 一念発起し教員に転身
「自分の被災経験を伝えながら、復興を担う浜通りの子どもたちの成長を見守りたい」。福島第一原発事故の影響で唯一全町避難が続いている福島県双葉町出身の関口瑞季(せきぐち・みずき)さん(27)は今春、11年ぶりに故郷の双葉郡に生活拠点を移し、新たな人生をスタートさせる。福島市の民間企業勤めから一念発起して転身し、中学校の教員として歩み始める。
南相馬市の原町高1年の時に被災し、直後は福島県川俣町や、隣の山形県で避難生活を送った。2012年からは両親や妹と離れて暮らし、母方の祖母と2人で福島市に生活の拠点を置いた。児童、生徒が避難先でからかわれたり、心ない言葉を掛けられたりする報道を見るたび、胸が痛んだ。震災直後の数年間は被災地出身という肩書に不安や負い目のような思いを感じ、古里と向き合えない時期もあった。
東京女子大を卒業後、福島県に戻って福島市の出版会社に勤めた。2019年2月、勤務先の同僚だった卓磨(たくま)さん(30)=福島市出身=と結婚し、転機を迎えた。夫婦で今後の人生を語り合う中、「生まれ育った古里の浜通りを元気付ける仕事がしたい」との思いが強まった。双葉町の実家は解体せずに残っている。半年に一度は墓参りなどで訪れる。両親も、いつかは町に戻りたいとの思いを抱いている。福島市も自分にとっては大好きな場所だが、震災前と震災後、どちらの自分のルーツも大切にしたいとの思いが芽生えた。
■将来は地元で教壇に 震災を知らない子どもにも「伝えたい」
中学時代から英語が好きで、大学は現代教養学部で学んだ。在学時に教員免許は取得していなかった。「自分の得意分野を生かしながら深く人と関われる職業は何だろう」と考えた時、教師という選択肢が浮かんだ。子どもたちを指導しながら自分も成長できる道を選びたい」。1カ月ほど悩んだ末、思いを固めた。
2020年春から免許取得に向けて大学の通信教育課程で勉強を始めた。当時勤めていた出版会社は退職した。生活のために福島県の臨時職員など非正規雇用として週5日働いた。勉強時間に費やせるのは仕事を終えた平日の夜と休日のみ。厳しい環境だったが、教師を目指す強い思いが自らを奮い立たせた。相談した原町高時代の恩師も、夢に向かって背中を押してくれた。
「常に挑戦し、学び続ける人生にしよう」。夢に向かって進む瑞季さんを追いかけるように、夫の卓磨さんも憬れだった花卉(かき)農家への転職を決断し、浪江町で研さんを積んでいる。新たな人生に向け、夫婦で支え合って歩みを進める。
昨秋に免許を取得し、福島県の教員採用試験にも合格した。3月からは卓磨さんと浪江町に移り住む。福島県伊達市の小学校の特別支援介助員などとして働き、子どもと関わりながら再就職に備えている。
勤務地が決まるのはまだ先だ。将来的には双葉郡内の学校で教壇に立ちたいと願っている。震災と原発事故から11年となり、当時の様子を知らない子どもたちが多くなった。「福島の復興はまだ終わっていない。震災の学びと、地域の魅力。どちらも伝えられる先生になりたい」。前を見据える言葉に力を込めた。
■「縁」を結びたい 若者有志が起業、第二の古里で挑む夢
「自分の力を地域のために」。震災後も度重なる自然災害、コロナ禍に苦しむ地域を、若い力とアイデアで活気付けようと意気込んでいる若者もいる。
福島県立相馬高出身の松本光基(まつもと・こうき)さん(23)=南相馬市出身=ら5人は、相馬市の住居兼倉庫を簡易宿泊施設の「ゲストハウス」に改装し、6月にも開業させる。「人と人の『縁』を結び、人生の新たなきっかけや幸せにつながる場所にしたい」。高校時代を過ごした第二の古里で、仲間と共に夢の実現に挑む。
松本さんは小学6年生の時に東日本大震災を経験。栃木県に一時避難して地元に戻った。原町二中(南相馬市)、相馬高(相馬市)では生徒会長を務め、被災地ツアーガイドをはじめ、県内外の高校、大学生らと共に震災伝承や復興の活動にも積極的に関わった。2017年に武蔵野大経済学部へ進み、大学4年生の秋に企画会社を起業。大学卒業後の昨年春から「相馬市を拠点に交流の場を生み出して地域活性化につなげたい」と考えていたが、実現する手だてを見いだせないでいた。
会社運営と並行し、大学時代の学生団体の活動が縁で、宮城県気仙沼市にある子育て支援団体の事務局も務めていた。相馬と気仙沼を行き来する機会が増えた昨年、気仙沼の宿泊先に現地のゲストハウスを選んでみた。年代も経歴もさまざまな宿泊者と気軽に打ち解け合える環境に初めて身を置き、多様性の中で新たな気付きや出会いを得た。「それがとても刺激的だった」。
宿泊客の中に自転車で全国を旅していた大学生の斉藤広大(さいとう・こうた)さん(23)=京都府出身=がいた。「ゲストハウスには人と人をつなぐ力がある」。魅力と可能性を感じた2人は意気投合した。「俺たちもやってみないか」。相馬高生徒会の同窓生で、そのゲストハウスで働いていた藤岡愛理(ふじおか・えり)さん(23)=南相馬市出身=とも再会。仲間の輪は広がり、同じく相馬高出身で栄養士の山田郁美(やまだ・いくみ)さん(23)=相馬市在住=、ゲストハウス利用者である大学生の高梨育臣(たかなし・なるみ)さん(21)=宮城県出身=も加わった。松本さんと斉藤さんを共同代表として昨年12月、合同会社「WA-WA」を設立した。資金を募るクラウドファンディングを立ち上げるなど活動をスタートさせ、5人の夢が動き出した。
相馬市のJR相馬駅から徒歩5分ほどの市街地で物件を見つけた。築50年余りの2階建てで、今月下旬にも改装工事に入る。1階はカフェ&バー、2階には男女別のドミトリー(客室)各1室とシャワー室、リビングスペースを設ける。客室には二段ベッドを設置し、2部屋合わせて14~16人が寝泊まりできる。宿泊料金は1泊3000円前後とし、カフェ&バーは一般客にも開放する予定だ。
「地域に関わろうとする人が増えれば、マチは元気になっていく」。松本さんは信念を抱く。「市内外から集まった人々がゲストハウスで出会いや絆を育み、相馬という地域への愛着や関わり方を見つけてくれたらうれしい」。その中から新たな地域創生の息吹が生まれる。仲間とともにそう願っている。
震災後の日々の暮らしや人々との交流の中で育んだ自らの思いと向き合い、地域のために新たな挑戦を始める。復興途上にある福島県の未来を、前に向かって進む若者たちが切り開いていく。
この記事は、福島民報とYahoo!ニュースとの共同連携企画です。