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【震災・原発事故14年】ドゥマゴ文学賞に「ロッコク・キッチン」 著者 川内有緒さん(福島県いわき市ゆかり)

2025.09.04 10:49

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生後の浜通りで生きる人々の姿や暮らしに「食」を切り口に迫った作品が、文学界で関心を集めている。福島県いわき市ゆかりのノンフィクション作家川内有緒さん(52)の「ロッコク・キッチン 浜通りでメシを食う」が3日、東急文化村の第35回ドゥマゴ文学賞に輝いた。川内さんは「全国の人に浜通りに来てほしい。今、ここで起きていることから何を感じるかを、考えるきっかけになれば」と願っている。


■浜通りの生活食で描く 11月に単行本「全国から来てほしい」

 「ロッコク・キッチン」は浜通りを南北に貫く国道6号(通称・ロッコク)沿いを舞台に文学や映画などを作る試み。「みんな、なに食べて、どう生きてるんだろ?」をテーマに川内さん、映画監督の三好大輔さんらが2023(令和5)年に始めた。沿道の住民に食を巡るエッセーを募集。一行が個人宅や学校、食堂などを訪ねて書き手たちに取材を重ねた。

 受賞作に収めたのは浪江町で働くインド出身女性が飲む「チャイ」や、ニュータウン化の進む地区で古い家を守る女性が作る「具だくさんの味噌汁」など5編のエピソードだ。まとめ回も含めて6回を講談社の文芸誌「群像」昨年10月号~今年8月号に隔月連載した。

 取材では実際に料理して食べてもらいながら調理法や思い出、人生観などを尋ねた。複合災害の影響が色濃い一方、そうした要素と無関係の思いや悩みも抱える。帰還者や移住者の別なく、愛着ある土地で人生を生き、生活を営む人々をありのままに発信した。賞の選考委員を務めたノンフィクションライター最相葉月さんは選評で「原発事故後を描くのにこんな方法があるのか」と驚きをつづった。

 受賞作に加筆修正し、書き下ろしの1編を加えた単行本「ロッコク・キッチン」は11月20日ごろ、講談社から刊行される。川内さんは受賞に際して「数え切れない人に話を聞かせてもらい、ご飯を食べさせてもらった」と協力に感謝し、「震災や原発事故をよく知らない人や関心の薄い人、良く思っていない人にこそ、作品を読んでほしい」と話している。

 同時進行で制作した同名のドキュメンタリー映画は取材中の様子、住民から集めた震災前の浜通りの食を収めた映像も収めており、10月9~16日に山形県で開かれる「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で披露する。来年の全国劇場公開を目指し、県内上映も準備中だ。


■「前向きな姿感じて」 制作協力の住民も喜び

 制作に協力した住民らも受賞を喜ぶ。連載に登場した大熊町の「読書屋 息つぎ」の店主武内優さん(27)=富岡町在住=は「報道とはまた違うリアリティーがある作品」と話す。アルバイトをしながら、かつて祖母宅のあった更地で本屋を営む。「川内さんの視点で自分について書いてもらい、発信者や住民として考えを深めようと思った」と出会いを振り返った。

 南相馬市小高区にある「おれたちの伝承館」館長、中筋純さん(58)は「浜通りに注目が集まり、県外から人が来てくれたらうれしい」と期待する。施設敷地内に放射線量を測る設備があり、住民らが食べ物を持ち込む姿を見ている。「みんなここで生きていくため議論している。その前向きな姿を感じてほしい」と訴えた。


※ドゥマゴ文学賞 先進性と独創性のある作品をたたえようと、1990(平成2)年に創設された。毎年交代する「ひとり選考委員」により受賞作が選ばれる。2007年には元県立博物館長赤坂憲雄さんの「岡本太郎の見た日本」、2016年には作家中村文則さん(愛知県出身、福島大卒)の「私の消滅」が受賞した。