東京電力福島第1原発事故に伴い避難指示が出るなどした市町村が、災害対応に関する公文書の保存に苦慮している。福島県大熊、富岡両町は一部の「永年保存」を決めているが、保管場所や保存・廃棄の判断が課題となっている。一般の公文書と同様に扱っているケースも。行政の意思決定過程などを記した文書は東日本大震災と原発事故という複合災害の教訓を伝える資料だが、災害に関する公文書保存に統一基準はない。記録をどう残し、生かすか―。有識者は条例など保存を巡る制度や仕組み、選別を担う人材が必要と指摘する。
■避難自治体 場所や選別課題
自治体は業務で用いた公文書の保存を含む扱いを文書管理規定などに定めている。一般に保存期間を過ぎれば規則を基に廃棄するが、資料価値の高い対象は「歴史的公文書」などと位置付けて期間延長や永年保存の対応を取る。保存・廃棄の選別基準などは各自治体の判断に委ねられている。
大熊町は2017(平成29)年に設置したアーカイブズ検討委員会で震災関連資料の扱いを検討。2019年度の検討委の提言などを踏まえ、2010~2011年度の全公文書を「永年保存」と決めた。以降の文書も保存期限前に担当者が確認し、復興事業や避難指示などの関連資料を保存している。ただ、保管場所の温度や湿度の管理は十分でなく、生涯学習課の担当者は「中長期的な保管には劣化対策が課題となる」と話す。
富岡町は被災10年目の2020年度に期限を迎えた震災関連文書から順に選別し、約900件を書庫に保管中だ。選別の対象は年千件のペースで増加が見込まれ、収容力を上回る可能性がある。職員の世代交代が進んでおり、文書管理を担当する総務課は初期の資料の重要性を正しく評価できない事態も懸念する。
両町以外の被災自治体も保存期間の延長などの措置を講じているが、国の補助金関係に対象を絞っていたり、長期保存に関する方針を明確に定めていなかったりするケースもある。
川内村は震災関連と一般の公文書の扱いに「特別な差をつけていない」としており、文書管理規定の保存年限などにのっとり管理している。葛尾村は保存方針を各部署に委ね、全庁的な総量の把握や後世に残す資料としての保存などはしていない状況という。
県は震災と原発事故の発生以降の災害対策本部や復旧・復興工事、他機関からの応援、原子力災害対策の記録などを保管してきた。保管量は簿冊(ファイル)で本庁に約3500冊、出先機関に約4500冊に上る。何が長期保管すべき公文書に当たるかを厳密には定義していない。基準作りの前段として今年度から文書の選別に着手している。
全容把握やリスト化に当たっている文書法務課の長谷川利嗣課長は「原発事故関連の資料は日常業務に使うため、担当部署で取り扱っているものも多い」と災害対応が続いている事情に触れた上で、精査や保管については「一歩、踏み出した段階」との認識を示す。
■専門家 国レベルで指針を
東日本大震災・原子力災害伝承館の瀬戸真之学芸員は被災自治体の現状を「全量保管は分量的に難しい一方、捨てるに捨てられない『板挟み』になっている」とみた上で、国レベルで指針を定めれば対応がしやすくなると提言する。保管後の活用方法も課題だとして「公文書に記載された事実を専門家が考察し、教訓を導き出せる環境が必要ではないか」と語った。
一方、震災関連文書を巡る県の対応について、公文書管理などを研究している福島学院大短期大学部の安田信二教授は「県の公文書は県民の共有財産であり、歴史的な記録でもある」と長期保管する意義を強調する。「文書管理制度を見直し、公文書管理条例を定めるべきだ。未設置の公文書館の整備も不可欠だ」と指摘している。