日本パラサイクリング連盟専務理事の権丈泰巳さん(49)=福岡市出身=は、いわき市のいわきFCパーク内に昨年十一月に誕生した自転車文化発信・交流施設「ノレル?」を拠点とし、仲間と共に自転車を通じたまちづくりに取り組む。自ら連盟を立ち上げ、昨年夏の東京パラリンピックでは日本代表の監督を務めた。復興に向かって歩むマチで新たな挑戦を始めたのは「自転車が地域や人をつなぎ、地域を元気にする」と信じているからだ。
中学の頃にテレビで見た世界最高峰の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」に魅了された。ハイスピードの中で繰り広げられる駆け引きに圧倒された。自ら寄付を募ってロードバイクを購入し、競技を始めた。
日大一年の時、障害者を二人乗りのタンデム自転車に乗せて走る活動に参加した。視覚障害がある男性を後ろに乗せて風を切ると、男性は「初めて乗った。気持ちいい!」と声を弾ませた。それまでは自分のために乗っていた自転車を、初めて「人のために乗りたい」と思った瞬間だった。
卒業後は競技の一線から退き、日本障害者自転車協会で選手育成に携わった。アテネパラリンピックから日本代表コーチに就き、選手と向き合って心身共にサポート。世界大会を誘致するなど競技振興にも力を注いだ。
二〇一九年、静岡県にあった連盟の事務所をいわき市に移し、自らも引っ越した。東日本大震災からの復興を象徴するサイクリングロード「いわき七浜海道」や、スポーツを通じたまちづくりに力を入れる市の取り組みに可能性を感じ、一歩を踏み出した。
被災地を自転車で巡るスタディーツアーや市内での大会開催など地域を盛り上げる構想を練っている。「自転車をきっかけに障害を越えた交流が生まれ、地域に活気が出る。そういう『自転車のまちいわき』を実現したい」と前を見据えた。