東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域のうち、福島県葛尾村野行地区の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除された12日、元村職員の半沢富二雄さん(69)は、制限なく古里で再び暮らせる喜びをかみしめた。在職中から農業を営み、原発事故発生後は野行での営農再開を目指して農地再生に奔走してきた。「止まっていた時間がようやく動き出した。またここで農業ができると証明したい」。基幹産業復活の未来を思い描く。
解除日の12日朝。半沢さんは準備宿泊をしてきた野行の自宅で節目を迎えた。「解除はうれしいが、課題は山積している。野行をどう立て直していくか考えなければならない」。ほっとした表情を浮かべる一方、素直な心境を打ち明けた。
一度は帰らないと決めていた。郡山市に新居を構え、家族4人での暮らしに不自由は感じない。先に村内に帰還した義理の両親は他界し、村との関わりも少なくなっていた。
それでも、野行の四季折々の空気が恋しかった。原発事故前まで人生の全てを過ごした愛する古里。春や秋に感じる土の匂い、裏山で採れる山の幸…。農作業を通じて触れる自然の恵みが忘れられなかった。帰りたい思いは徐々に膨らんだ。
家を解体するかどうか迫られた4年前、反対していた家族が背中を押した。「私たちだって本当は帰りたい」。昨年11月に古里に自宅を再建。「またここで農業がしたい」と地元の農業生産組合の組合長として、郡山市から時間を作って通った。荒れた農地の管理に力を注ぎ、コメの試験栽培にも取り組んできた。
かつて盛んだった農業再開のめどが立てば、住民の帰還につながると考えている。当面は週の半分程度、野行に寝泊まりをしながら野菜の試験栽培などを実施していく。将来的には家族とともに古里で暮らす夢を抱く。
「やっぱり野行が大好き。もう一度、いつまでものんびりと人が過ごせる環境を作っていけたらいいな」