フランス映画界の巨匠ジャンリュック・ゴダール監督は、ヌーベルバーグ(新たな波)と呼ばれる映画刷新運動の旗手とされた。60年以上前に始まり、独創的な映像技術で革新的な作品を次々と生み出した。県内にも根強いファンはいるのではないか▼代表作「勝手にしやがれ」は斬新さが注目された。罪を犯す若者の刹那的な生き方を描いた作品だ。即興的な演出やロケ中心の撮影、時間の経過を飛ばしたような編集手法は革命をもたらした。これが長編デビュー作となった▼「女は女である」「気狂[きちが]いピエロ」などを世に送り出し、13日に91歳で亡くなった。その最期にも驚かされた。死を選んだ人が医師処方の薬物を自ら使用する「自殺ほう助」により、この世を去った。関係者は「病気ではないが、疲れ切っていた」と説明したという。自宅があるスイスで認められている制度によって、自死を選んだとみられる▼日本では、尊厳死や安楽死の在り方を巡る議論は閉ざされている。苦しみから解き放たれるとはいえ、本人にとっても、家族や周囲にとっても、過酷な選択に違いない。死を許容する国や人々の命への思慮を推し量るほどに、悲しみが先に立つ。