全国3位の広大な県土を有する福島県は県北、県中、県南、会津、南会津、相双、いわきの七つの生活圏ごとに県の施策が展開されてきた。13日に告示された知事選に立候補した現職内堀雅雄候補(58)、団体役員の新人草野芳明候補(66)=共産推薦=は各地域を巡り、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興施策、急激な人口減少対策などを訴えている。県民は次期知事に何を求めているのか。七つの生活圏ごとに課題を追う。
■医師不足
知事選の告示から一夜明けた14日。県選管委南会津地方事務局の職員は、秋が深まる南会津町や下郷町で広報車を走らせ、県民に投票を呼びかけた。
啓発カーを横目に、只見町唯一の医療機関である朝日診療所では朝から、若山隆医師と山並寛明医師の2人が休む間もなく診療に当たった。常勤医師は10月から1人減り2人体制だ。医師不足が続き、午後9時以降は救急患者を受け入れることができないままだ。
町は夜間救急対応などで少なくとも4人の常勤医師が必要だとして、県に毎年医師派遣を求めているが実現していない。会津若松市に福島医大会津医療センター付属病院が誕生し、非常勤医師はある程度補われたが、診療所の吉津瑞穂事務長は「コロナ禍もあり医師や看護師の負担は重い。1人だけでも派遣してほしい」と求めた。
「このままでは南会津地域の医療が取り残されてしまう」。南会津地域の自治体で医療・福祉関係を担当する男性職員は第7次県医療計画を見詰めつぶやいた。
2018(平成30)年策定の計画では、入院医療や専門外来医療を提供する「2次医療圏」は県内六つの区域に再編された。従来分かれていた会津、南会津両地域が一つに統合された。県は、南会津地域の多くの患者が会津若松市の病院に通院・入院している点を理由に挙げる。
今年3月の計画の中間見直しでは2次医療圏の区割りが継続となった。報告によると、会津・南会津医療圏の常勤医師は250人で、A(達成)、B(改善)、C(維持・後退)、D(その他)の4段階評価は県北地域などと同じ「B」。しかし、南会津地域に限ると、相双医療圏と同じ「C」と最も低い。医師数は目標値14人の半数にとどまる。
男性職員は「南会津地域の医療の脆弱(ぜいじゃく)性が会津地域と混ざることで薄まってしまい、厳しい現状が伝わらない」と指摘する。県は、南会津地域などへき地の医療機関に勤務する意思のある医学部生を対象とした修学資金制度を設け、若手医師の定着を目指している。只見町で飲食店などを営む佐藤弘さん(71)は先日、重い肺炎を患い、車を約2時間運転して会津若松市内の総合病院に向かった。「高齢者にはつらい。過疎地の医療を改善してほしい」と訴えた。
■人口減少に危機感
「人口減少をいかに食い止めるか。南会津郡の大きな課題だ」。南会津地方町村会長の星明彦檜枝岐村長は危機感を募らせる。
2020(令和2)年国勢調査によると、南会津地域全体の人口減少率は10・6%、高齢化率は43・3%で、それぞれ県全体の4・2%、31・7%を大幅に上回る。
南会津町舘岩地区に1校ずつある小中学校は児童・生徒数が少ないため他校と統合する必要性があるが、近隣の学校と離れているため難しい。町は全国から子どもを集める長期山村留学制度の導入の準備を進めている。
JR只見線全線再開通など地方活性化の種はある。星村長は、定住人口や関係人口の拡大は小さな町村だけでは限界があると指摘。「広域連携の要となる県の力に期待したい」と語った。