新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、JR東北新幹線の新白河駅には首都圏からの出張とおぼしきサラリーマンや観光客が次々と降り立つ。東京から新幹線で1時間余とアクセスしやすい。福島県と県南地方の各市町村は有利な環境をアピールし、移住の促進に力を入れている。だが、移住者数は伸び悩んでいる。
県によると、2021(令和3)年度の県南地域への移住者は261人。集計方法などに違いがあるため単純比較はできないが、いわき地域の705人、県北地域の388人などに比べると見劣りする。白河市のサテライトオフィス「ラ・クリエーションプラス」に支店を設けたジョルダン(本社・東京都)の井上竜一支店長(59)は「関東圏に近い地理的優位性、歴史的建造物や自然が多いといった地域の魅力を生かし切れていない」と指摘する。
県県南地方振興局は首都圏での移住促進イベントに積極的に参加しているが、過去5年のブース対応件数はいずれも10件未満。移住希望者を全国の自治体が奪い合う形となる中で、希望者から関心が寄せられていないのが実情だ。振興局はゴルフ場を利用したワーケーション、短期移住体験などさまざまな施策を展開し試行錯誤を続けている。
ゴルフ場でのワーケーションに取り組んでいる西郷村の白河高原カントリークラブの斎藤利幸支配人(52)は「取り組みが知られていないと感じる。県には関東圏などでのPRを強化してほしい」と求める。
移住定住の増加に向けては、企業誘致が鍵を握る。ジョルダンの支店は今年3月に県内で初めて設けられ、従業員2人が移住した。
大きな課題は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が県南地域で十分に進んでいないことだ。首都圏では可能なデジタルを活用したビジネスを展開しにくいという。井上支店長は「首都圏からの企業誘致や移住を促すためにも、県はDXなどの環境をさらに充実させるべき」と提案する。
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栃木、茨城両県と隣接する県南地域。塙町にある塙厚生病院には日頃、茨城県から救急車が乗り入れる。白河市の白河厚生総合病院や白河病院なども同様だ。
一方で、県境付近の住民を隣県に救急搬送するケースもある。平時には問題のなかった隣県との相互乗り入れだが、新型コロナウイルスの感染拡大で弱点が露呈した。緊急時に対応できるような県境をまたいだ計画的な医療体制が構築されておらず、現場に混乱が生じた。
流行のピーク時には県南地域の四つの2次医療機関でコロナ病床を最大限に増やしたため、通常医療の縮小が避けられなかった。鮫川村の自営業早川正博さん(71)は「村には診療所しかない。新型コロナが再拡大したら急病時に医療機関に受け入れてもらえるのか」と不安がる。
「感染症の急拡大や大規模災害に備えるため、県の枠を越えて連携する医療圏の体制を早急に整える必要がある」。矢吹町の会田病院の会田征彦理事長(79)は福島、茨城、栃木3県にまたがる地域医療圏を構築するため、県が広域連携と情報共有を強化すべきと訴える。