X メニュー
福島のニュース
国内外のニュース
スポーツ
特集連載
あぶくま抄・論説
気象・防災
エンタメ

【福島県知事選 7つの生活圏は今】(6)会津地域 IT、漆器人材定着を 支援の充実不可欠

2022.10.20 09:48
学生らを前に講話する久田所長(中央)

 県が情報通信技術(ICT)を強みとする会津大を会津若松市に開設し、来年で30周年を迎える。卒業生や現役生による大学発ベンチャーは30を数え、農業、観光に次ぐ第3の産業化への期待は大きい。ただ、IT関連企業の集積に向けては専門的な人材の地元定着が課題の一つになっている。

 会津コンピュータサイエンス研究所の久田雅之所長(47)は会津大の1期生で、最初の博士号を取得した。会津を日本のシリコンバレーに―。初代学長の故国井利泰さんが掲げた志を胸に、市内でベンチャー企業を立ち上げた。現在、ICTによる再生可能エネルギーの有効活用プロジェクトを進めている。19日、地元商工関係者や現役学生らとの勉強会で演壇に立ち「(ベンチャーは)資金繰りが課題で、事業を継続して成果を出すのは難しい。会津に企業を根付かせ、人材を定着させるには時間を要する」と打ち明けた。

 市は今年度、国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の採択を受け、ICTを暮らしに活用する取り組みを加速させている。一方、2019年度の市の産業別総生産統計で情報通信分野の総額は113億円で全体の2・5%。産業集積が進んでいるとは言い難い。2021(令和3)年度の卒業生の就職先は約7割が県外というのが実情だ。

 会津若松商工会議所の栗林寿副会頭(69)=会津ゼネラルホールディングス相談役=は2020年2月、自らが発起人となり、会津大生の創業を支援する「地域ベンチャー創生支援財団」を創設した。学内に寄付講座を設け、1年次から経営的な視点を育み、創業希望者の資金調達や運営面をサポートしている。

 県は地域課題の解決に資する創業に対して、200万円を上限に補助している。大学側もベンチャーの施設利用などを優遇しているが、創業後の本格的な支援までは十分に手が行き届いてない。栗林副会頭は「財団がモデルケースとして取り組むだけでは限界がある。県を挙げたバックアップも必要だ」と話した。

   ◇   ◇   

 伝統産業の会津漆器は長年にわたり、後継者育成の課題を抱えている。20年前には約260カ所あった工房は2022年3月時点で102カ所まで減った。

 会津漆器協同組合連合会は1971(昭和46)年、県や会津若松市などの協力を得て会津漆器技術後継者養成協議会を設立。2003(平成15)年からは会津漆器技術後継者訓練校として若手育成に力を注いでいる。

 訓練校のカリキュラムは2年間。毎年、全国から定員の3人程度が入校し、組合加盟事業所の従業員として基礎的な技術を磨く。技術取得には最低でも5年を要するとされ、就職後の研さんも必要だ。

 ただ、卒業後の就職は難しい。会津漆器協同組合の高瀬淳理事長(70)=白木屋漆器店社長=は「やる気のある若者が学びに来てくれるのに申し訳ない」と嘆く。市場が縮小するなどの影響で事業者側にとって定期的な雇用が容易でないためだ。雇用に応じた助成制度の拡充や、販路開拓への支援の手が必要だと感じている。

 若手が独立を断念せざる得ないケースも出ている。経費を考えれば、作業場や機材の導入などで約1千万円の負担がのしかかる。県ハイテクプラザは技術開発などを通して産地を支えているが、高瀬理事長は「県で貸し工房を構えるなど、柔軟な対応を検討してほしい」と求めた。