福島県の福島市産のユズを使い、南会津町の酒蔵で醸造する「ゆず酒」が11年ぶりに復活し、年内に念願の販売が始まる。地域の特産品を生かしたコラボ商品として2011(平成23)年3月に披露される予定だったが、東京電力福島第一原発事故で販売計画は白紙に。今年3月に福島市産のユズの出荷制限が解除され、酒造りが再始動した。関係者は「福島の復興のシンボルとして風評に苦しむ県民の一助になってほしい」と期待している。
2011年、福島市山口の農業安田和昭さん(71)方で収穫したユズを使い南会津町の会津酒造で醸造したゆず酒約150本が完成。当時、ユズの北限は福島市とされていたため、商品名は「北限の『完熟ゆず』まる搾り ゆずのおさけ」と名付けた。東日本大震災が起きた3月11日に、福島市でお披露目会を開く予定だったが、中止に。仕込んだ酒は原発事故前に収穫したユズを使っていたが、風評で販売のめどが立たず、復興関連イベントでわずかな本数が販売されただけだった。
今年3月の出荷制限解除をきっかけに、会津酒造社長の渡部景大さん(35)と弟で専務の裕高さん(32)、和昭さんの長男の和尚さん(37)が連携。準備を進めている。ユズの絞り汁を会津酒造の純米酒に混ぜるなどして12月に完成させ、年内に販売を始める計画だ。製造本数や価格は調整している。
同酒造では以前からゆず酒を製造、販売しているが、県外産のユズを使ってきた。景大さんは「地元の福島県産のユズを使ったゆず酒を再び作ることができうれしい」と感無量の様子。「止まっていた時計の針が再び動き出し、これからが始まりだと思う。オールふくしまの酒を復興のシンボルとして浸透させたい」と意気込む。裕高さんは「コロナ禍で日本酒の消費量が落ち込む中、少しでも多くの人に興味を持ってもらうきっかけになれば」と期待する。
福島市産のユズは甘味と酸味のバランスが良く、豊かな香りが特徴という。和尚さんは「出荷制限が解除されなかったため、(自分たちが)置き去りにされている感覚だった」と振り返る。「福島の復興は進んでいるが、光が当たっていない部分も多い。陰の部分にも目を向けてもらうとともに、おいしいユズのお酒を味わってほしい」と願っている。