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越後の毒消し売り(11月29日)

2022.11.29 09:54

 「越後出るときゃ みんなで出たが 泣いて別れる気多宮[けたのみや]」ー。明治の頃から、民間薬を行商して全国を渡り歩いた女性の一団「越後の毒消し売り」の歌といわれる。旧越後街道の宿場町だった会津坂下町の気多宮集落に伝わる▼この地には、奥会津や遠く尾瀬を経て群馬県に抜ける旧沼田街道との分かれ道がある。日本海に面した新潟の村に住む彼女たちは、荷を背負って越後街道を旅し、ここで会津地方の各地に散ったという。しばしの別れを涙ながらに惜しんだこともあったのだろう▼桑野淳一著「越後 毒消し売りの女たち」(彩流社刊)は「歩く百貨店」と紹介する。薬ばかりでなく化粧品やシャツなど日用品を幅広く商ったからだ。泊まり込みで農家の仕事を手伝うことさえあったようだ。それほどまでに客と密着した商売だったのに、戦後しばらくすると姿を消す▼毒消し売りが足を運んだ土地の一つである只見町は、県境をまたぐJR只見線の再開通で沸く。新潟とを結ぶ峠「八十里越」の全線開通も控える。隣県同士の結び付きは前にも増して強くなる。女性たちが旅の途中で泣いたり笑ったりしたように、人間くさい交流がもっと広がればいい。