東京電力福島第1原発事故の賠償基準「中間指針」第5次追補が策定された20日、「被害の実情に見合わない」と指摘されてきた指針が改定され、追加賠償の対象者からは「生活の支えになる」「苦悩に向き合う判断」などと一定の評価を示す声が上がった。一方、原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の腰の重さや判断には疑問もくすぶる。
南相馬市小高区の旧避難指示解除準備区域で暮らす無職山沢征さん(79)は小高区の住民らが国と東電に賠償を求めた訴訟の原告団長だ。来年3月に判決を控える。生活基盤の変容への賠償が認められ「少しでも多くの被災者の生活の支えになればうれしい」と期待する。
小高区は2016(平成28)年7月に帰還困難区域を除く避難指示が解除されたが、11月末現在の住民は3832人と震災前の3割。約40世帯あった山沢さんが住む集落も半減した。田畑が荒れゆく光景に憤り、賠償は不十分だと訴訟に加わった。「いつの間にこんなに時が過ぎたのか」と歳月を思い返した。
計画的避難区域には相当量の線量地域に滞在した損害を認めた。飯舘村で測量設計会社を営む大内亮さん(46)は原発事故後に妻や子どもと福島市に一時避難。自身は1、2週間で村に戻り復旧に奔走した。「10年以上も過ぎたが、住民の苦悩に向き合う判断ではないか」と受け止めた。
過酷避難を強いられた福島第1原発の20キロ圏の住民は30万円が加算される。双葉町浜野行政区長の高倉伊助さん(66)=須賀川市に避難=も「着の身着のまま」で避難した。
町内中野地区にあった自宅が津波に襲われた。避難所から火災で燃えるわが家を眺めた。その後、避難のため各地に移動を強いられた。「過酷な目に遭った人が大勢いる。増額は当然だ」と改定を支持する。
自主的避難等対象区域(県北、県中など23市町村)にある福島市の主婦幕田由美子さん(61)は事故当時、夫と娘の3人暮らし。健康不安という内面的な被害をどう判断するかは難しい問題と理解している。「見直しは歓迎する。もっと早く決められなかったのか」と複雑な思いを口にした。
■対象外地域落胆の声
第5次追補では、自主的避難等対象区域の妊婦・子ども以外の精神的損害に伴う賠償の期間が延びる一方、県南や会津は含まれなかった。
白河市の農業滝田国男さん(66)は「私たちも風評被害や精神的影響を受けたのに、なぜ地域により差があるのか」と落胆する。西白河地方市町村会長の鈴木和夫白河市長は「個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは全て賠償対象」という指針の表現に触れた上で「県、県原子力損害対策協議会を通じて誠実に対応してもらえるよう求める」とのコメントを出した。
■非常に不十分な見直し 原発事故の賠償問題を研究している大阪公立大大学院の除本理史教授(環境政策論)
指針見直しは遅きに失したとはいえ、「生活基盤変容」を中心とする新たな賠償基準を盛り込んだ点は評価できる。しかし自主的避難等対象区域の拡大が見送られるなど非常に不十分な見直しにとどまった。避難区域内外の賠償格差も広がる内容だ。第5次追補は最終版ではない。より抜本的な見直しと被害実態に見合った賠償を続けるべきだ。
■納得できる内容か疑問 浪江町民が国と東京電力に損害賠償を求めた訴訟の原告側代理人を務める浜野泰嘉弁護士
「過酷避難状況」に伴う慰謝料など、われわれが裁判で訴えている主張がある程度認められた。係争中の同種訴訟で賠償額が上積みされる余地は十分にある。一方で、全ての被災者が納得できる内容であるかどうかは疑問が残る。東電は原発事故を起こした責任を認めて謝罪し、誠実に賠償を進めていくべきだ。今後の動向を注視したい。