福島県双葉町は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生前から町の小中学校で外国語指導助手を務めている英国人男性2人の出身地ハル市とビバリー町との交流に乗り出す。2人の貢献への感謝を伝え、子どもたちの人的交流などにつなげて復興の担い手育成を目指す。友好都市協定締結を視野に入れ、関係者が15日、事前調査のため現地に出発する。
昨年、町内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除され、新たなまちづくりが進んでいる。町には双葉南・双葉北両小、双葉中があり、合わせて38人がいわき市の校舎で学んでいる。復興へ向けて児童生徒に世界に目を向けてもらう機会を提供する。ハル市、ビバリー町と友好都市協定の締結を目指し、児童生徒の現地派遣などを見据える。異文化交流を通して国際感覚やコミュニケーション能力の向上を図る方針だ。
伊沢史朗町長、舘下明夫町教育長ら調査団は8日間の日程で現地を訪れる。首長を表敬訪問し、協定締結を求める。教育機関などを訪ね、子どもたちの派遣が可能かどうかを調べる。カンブリア州の原子力関連施設セラフィールドも視察する。
舘下教育長は「調査を成功させ、将来の有意義な学校教育につなげたい」と話す。福島民報社の小宅祐貴双葉北支局長が同行取材する。
■「子どもの視野広がる」 バラードさんとジェリーマンさん 震災と原発事故経験、帰国せず英語指導励む
「異文化交流が実現すれば世界を知ることができる。子どもたちの視野が広がる」。双葉町の外国語指導助手アンソニー・バラードさん(58)=ハル市出身=と、フィリップ・ジェリーマンさん(41)=ビバリー町出身=は期待に胸を膨らませる。
2人は約20年前、語学指導の外国人を受け入れる「JETプログラム」で来日。バラードさんは2008(平成20)年に双葉中、ジェリーマンさんは2009年に双葉南・双葉北両小に配属された。ともに町に移り住んだ。美しい海や山、田園風景…。地域の魅力に引き込まれ、双葉が大好きになった。
毎日の授業ですぐに子どもたちと仲良くなった。「双葉の子どもは元気いっぱいで、礼儀正しい」。真剣なまなざしで教えを聞いてくれる子どもたちの姿がうれしかった。
震災と原発事故を町内で経験した。意思疎通もままならない異国の地で不安を感じながら町民と一緒に避難した。だが、ともに帰国は考えなかった。「子どもたちを見守らなくてはならない」。指導者としての責任感から、児童生徒に付き添い、埼玉県加須市に移り避難先の学校でも授業に携わった。
2014年にいわき市で学校が再開されてからも指導を続けている。震災と原発事故発生後は町民や町の写真を撮影して県内外で写真展を開く取り組みも始めた。体育祭など学校行事にも訪れ、カメラマンとして参加している。ふたば幼稚園児とも交流し、子どもたちや町民から慕われている。
双葉中の大沼俊之校長は「全ての子どもに優しく接している。献身的に業務に当たってくれてありがたい」と感謝する。町も「尊敬に値する素晴らしい先生」と敬意を示す。
今回の事前調査に調査団の一員として同行する。町と母国との交流が深まるのを強く願う。子どもたちが世界に羽ばたけるよう、寄り添いながら指導を続ける。