東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11年10カ月余り。被災地の有志でつくる「HAMADOORI13」と東日本大震災復興支援財団は浜通りで起業する若者支援の「フェニックスプロジェクト」を進めている。若者の挑戦は浜の希望へとつながる。採択された事業の今を追う。
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川内村を穏やかに流れる木戸川沿いに、築200年を超える古民家がひっそりとたたずむ。陶芸家として活動する志賀風夏さん(28)は家屋を改装し3月3日、カフェ&ギャラリー「秋風舎(しゅうふうしゃ)」をオープンさせる。3年前に亡くなった父敏広さん=当時72歳=が愛した建物を受け継ぎ、村の魅力を伝える癒やしの空間を提供していく。
陶芸家だった敏広さんが30年ほど前、いわき市の山間部にあった江戸時代の古民家にほれこみ、川内村に移築した。建物を解体し、トラックで細い道路を通って運び込み、建て直した。費用はかさみ、新築の家を建てるほうが安いぐらいだった。
自然に囲まれた旧家でコンサートを開いたり、自身の陶芸品を使った食事会を開いたりしてきた。太いはりがむきだしで、中央にいろりがある。現代の住宅と比べて、使いやすい建物ではないが、歴史を重ね深みを増した柱や土壁を眺めていると、昔の暮らしの息遣いが感じられた。
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敏広さんが亡くなり、建物をどうしたらよいか、風夏さんは悩んだ。いつも当たり前にあった古民家を中心にした暮らしがいとおしく思えた。春は山菜を食べ、夏は川で涼み、秋は紅葉を愛(め)で、冬は新雪を喜んだ。古民家をカフェとギャラリーとして残そう。にぎわいを呼び、震災と原発事故からの復興を進める村の力にもなりたい-。
水回りを改装し、劣化した屋根や壁は補修しなければならなかった。貯蓄を取り崩し、年月をかけて直していこうと考えていたとき、若手の起業を応援するフェニックスプロジェクトを知った。事業前に資金を提供される仕組みも魅力的だった。
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都会にはない田舎暮らしの素晴らしさ、生まれ育った川内村の環境を守り、残していきたいと訴え、第1期の事業に採択された。厨房(ちゅうぼう)の改修工事が終わった。昔ながらの土壁の技法を継承するため、ワークショップを開いて、川内小中学園の児童生徒や福島大生らの協力を得て壁を補修した。
村産野菜を使ったカレーやサンドイッチ、山菜のおにぎりなどを提供する。村内への出店を考えている人が試行的に商品を販売したり、村内で活動する大学生が成果を発表したりする場としても開放し、若者の挑戦を後押しする。新たなつながりを生むとともに、地域の文化を次世代に伝える機能も持たせる。
「四季を感じながら会話と笑顔の絶えない店にしたい。若い人が村に来るきっかけになってほしい」。大好きな地で生きていく。
■HAMADOORI13メンバーの応援コメント 双葉郡の求心力になる タイズスタイル社長 吉田学さん
志賀さんの地域を大事に思い、応援したいという強い気持ちが事業につながっており、大きな可能性を感じている。川内村をはじめ、双葉郡の求心力になる場所になってほしい。