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【震災・原発事故12年 復興の分岐点】移住定住 移住者離れるケースも 定着へ支援策の強化必要

2023.03.04 09:30

 福島県内の人口減少が続く中、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興や地方創生を前進させるには、県外からの移住・定住の促進が鍵を握る。県内への移住者は増加傾向にあるが、ここに来て移住者が離れてしまうケースが問題化している。専門家は、定着には地域にスムーズに溶けこめるような支援策の強化が必要と指摘する。

 「満員電車に揺られ、狭い家に住み続ける一生は考えられなかった」。神奈川県から福島市にUターンで移住した穂積真人さん(32)は春めく古里の山野に親しみ、充実感を得る。2021(令和3)年8月、コロナ禍を機に都内のIT企業に勤めたまま移り住み、テレワークで働く「転職なき移住」を決断した。

 県「福島に住んで。」アドバイザーも務める。「新たな移住者を呼ぶ好循環を生むためには今の移住者の姿や事例の効果的な発信が欠かせない」と話す。


 2021年度に県内に移住したのは1532世帯(2333人)で、前年度から倍増して過去最多を更新した。だが、中には地域になじめないなどの理由で別の場所に移ってしまう人もいる。東京都から県内に移り住んだ女性(40)は昨年、再び都内に転居した。豊かな自然などに魅力を感じていたが、周囲からの孤立感を深める出来事が重なったためだった。こうしたケースが続けば、定住につながらない。

 背景にはコロナ禍の状況の変化もある。行動制限緩和による社会経済活動の活発化により、人口の東京一極集中の傾向が再び強まりつつある。

 県は来月、「ふくしまぐらし推進課」を新設し、浜通りなどへの移住支援策に力を入れる。避難区域などが設定された浜通りなどの12市町村は、復興の進度や住民帰還に差がある。まちづくりには移住促進が欠かせない。県は、ふくしま12市町村移住支援センターを中心に情報発信や相談体制を拡充している。

 12市町村への移住世帯を対象とした最大200万円の移住支援金の申請件数は今年度200件を超え、前年度実績の3倍に伸びている。だが、一部の市町村は「金銭で釣るような感覚だけでは先細りになる。地域ぐるみでの継続的な支援が欠かせない」と訴える。


 大熊町のおおくままちづくり公社は昨年9月、移住者や住民の交流促進のため、チャットツール「Slack(スラック)」にオンラインコミュニティー「大熊町サポーターズ」を開設した。移住者や町内外で暮らす町民、首都圏の大学生ら約220人が参加し、地域の情報共有に一役買っている。昨年7月に都内から移り住んだ主婦近藤佳穂さん(28)は住民と畑仕事に汗を流すなどしている。「サポーターズで行動範囲が広がり、地域とつながっている。町の復興や移住に興味がある人にも教えたい」と仲間を増やす考えだ。

 福島大行政政策学類の岩崎由美子教授(社会計画論)は移住後のライフステージに応じたきめ細かい情報提供や支援策が不十分だと指摘。「知らない土地に移るのは誰でも不安がある。大都市では出会えない人や、つながりの魅力の発信が必要。仲間と地域をつくり、復興に取り組む思いを伝えていくことが大切だ」と提言する。