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【あなたを忘れない】福島県いわき市 高橋愛さん(当時16歳) 自然や花々愛する 自宅跡の慰霊所に植栽

2023.04.12 10:20
自宅跡に残る庭石で慰霊所を設けた久雄さん。毎年節目に訪れ、最愛の娘に思いをはせる

 柔らかな春の日差しが降り注ぐ、福島県いわき市田人町石住字貝屋地区。しんと静まりかえった山あいの集落に色鮮やかな花々が咲き競う。東日本大震災から1カ月後の2011(平成23)年4月11日、自然豊かな集落で生まれ育った高橋愛さん=当時(16)=は巨大余震で起きた土砂崩れに自宅にいて巻き込まれ、亡くなった。

 愛さんは常に身近だった美しい自然や花々に惹かれ、将来は花屋になることを夢見て磐城農高園芸科で学んでいた。11日午後5時16分ごろ、最大震度6弱の揺れが襲う。その直後、地域住民が「山津波」と表現した大規模な土砂崩れが、集落を一瞬にしてのみ込んだ。


 悲劇から12年となった11日、父の久雄さん(68)は家族と愛さんの墓前を訪れた。「もう12年経ったね。これからも家族を見守っていてね」。最愛の娘に優しく語りかけた。一家は「少しでも愛のそばにいたい」との思いから、現場から車で10分ほどの古殿町に新居を構え、暮らしている。

 12年の歳月は周辺の景観も変えた。土砂崩れ現場となった裏山は治山工事が完了し、かつての深く美しかった森はない。地震直後は土砂で寸断された県道には新たなトンネルや橋が整備された。愛さんが通った小中学校は学校再編で閉校となり、校舎も取り壊された。久雄さんは「愛との思い出が詰まった地域が変わってしまうのはさみしい」とうつむく。


 時の流れにあらがうかのように、自宅跡には今も大きな庭石が残っている。愛さんを思い、手を合わせられるように久雄さんが慰霊所として整備した。周りにはアジサイやヒマワリ、アサガオ、コスモスなど家族が育てた多くの花の苗が植えられている。イノシシなど野生動物に荒らされることもあるが、今後も続けたいと久雄さんは語る。「愛は花が好きだったから。これからもずっと花に囲まれていてほしい」。あの日に突如牙をむいた裏山には、土砂崩れを免れたヤマザクラが静かに美しい花を咲かせている。