東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた福島県双葉町の浜野行政区で、県内外に避難している住民の絆をつなぐ新たな行事が生まれる。30日、みこしを担いで地域を巡る初めての「みこし巡行」が催される。区内にある八幡神社の氏子が復興につなげようと企画し、今後も続けて地域の風物詩にすると誓う。かつての住民が阪神大震災で被災した兵庫県の神社から寄贈されたみこしを担ぎ、古里への思いを発信する。
みこしが保管されている八幡神社の倉庫で、氏子総代で行政区長の高倉伊助さん(67)が準備を進める。「浜野行政区を盛り上げたい」と巡行の成功を誓う。
神社は津波で被災したが、2021(令和3)年に再建された。この年、兵庫県淡路市の野島八幡神社のみこしが寄贈された。このみこしは阪神大震災で被災し、後に修復された。
今年1月、八幡神社の氏子の代表者による会合で、高倉さんがみこし巡行の実施を呼びかけた。神社には震災前、みこしはなかった。「新しい行事を催せば住民が再び集まり、絆を強めることができる。地域にも再びにぎわいが生まれる」と信じた。
中野、中浜両地区でつくる浜野行政区では震災発生時、津波で14人が犠牲になった。約50世帯ほぼ全ての住宅が流され、住民は県内外に離れ離れになった。2020年3月に区内の避難指示は解除された。町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示も昨年8月に解除され、町民の帰還が少しずつ進んでいるが、浜野行政区は津波浸水区域となっており、居住できる環境ではない。
浜野行政区にはかつて住宅が並び、田んぼが広がっていた。今は企業の事業所が並ぶ復興産業拠点へと変わった。住民が足を運ぶ機会は少なくなり、絆の維持が難しくなっている。高倉さんには豊かな自然の恵みを受けた暮らしの証しを残したいとの思いがあった。
担ぎ手を集めるのに苦労した。遠く離れた住民には手紙を送って巡行の趣旨を書き記し、必死に参加を呼びかけた。当日は30人ほどが集まる予定だ。高倉さんは「巡行を契機に、地域をさらに発展させていく」と力を込めた。
■担ぎ手の参加当日も受け付け
巡行のコースは【地図】の通り。30日午前9時30分ごろに八幡神社を出発する。双葉町産業交流センターや浅野撚糸双葉事業所などを巡り、八幡神社に戻る約3キロのコースを練り歩く。担ぎ手の当日参加も受け付ける。コースは天候次第で変更になる場合がある。