東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水の海洋放出を所管する西村康稔経済産業相は14日、都内の全国漁業協同組合連合会(全漁連)を訪れて坂本雅信会長と会談し、海洋放出への理解を求めた。坂本氏は会談後の取材に「科学的安全と社会的安心は違う。安心を得ることができない限り、我々は反対の立場を崩すわけにはいかない」と強調した。政府が夏ごろとする放出開始が迫る中、新たな風評を懸念する漁業者から、安心感の醸成不足を突き付けられた格好で理解は得られていない。
会談は冒頭を除き非公開だった。西村氏はあいさつで原子力規制委員会の使用前検査、国際原子力機関(IAEA)の包括報告書などで「放出前に確保されるべき安全性がしっかりと確認された」と説明し、「国が責任を持って進めていく」と述べた。福島県をはじめ、青森、岩手、宮城、茨城各県の漁業団体幹部も同席し、会談は約1時間に及んだ。
会談後、西村氏は報道陣の取材に、漁業関係者から(1)安全性は一定の理解ができる(2)科学的安全と社会的安心は別物で国内外への説明と風評対策が重要(3)安心して漁業を継続できることが唯一の望み―という趣旨の発言があったと明らかにした。西村氏は漁業関係者に説明を繰り返してきたとして「信頼関係を少しずつ深めてきているのかなと認識している」と話した。
坂本氏は会談後の取材で「(処理水海洋放出の)科学的安全に関する理解は一定程度できた」としつつ、「国が全責任を負うと言っているだけでは不十分」と述べ、「社会的安心が必要だ。それは国が示すもので、我々がこれだったらいいとは言えないと思う」と国にさらなる対応を求めた。
西村氏は11日に県漁連にも海洋放出への理解を求めたが、野崎哲会長は改めて反対を表明した。政府と東電は2015(平成27)年、県漁連に「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束している。
IAEAは4日に公表した包括報告書で、海洋放出は「国際的な安全基準に合致する」と評価し、「計画通りの放出であれば、人や環境に与える影響は無視できるほどごくわずか」と結論づけている。
東電の計画では、多核種除去設備(ALPS)で浄化できないトリチウムを国の基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満に海水で薄め、海底トンネルを通じて原発の沖約1キロで放出する。