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処理水放出を開始 試練の海いつまで… 福島県の漁業者にじむ無力感 県外サーファー「応援する」

2023.08.25 09:33
網の片付けをする漁師。奥は東京電力福島第1原発の排気筒=24日午前6時20分ごろ、浪江町・請戸漁港

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故からの復興へ向けて歩む福島県民、恵みの海は新たな試練の時を迎えた。処理水の海洋放出が始まった24日、漁業者は「ついに始まってしまった」と無力感をにじませた。一方、「廃炉を進める上では仕方ない」と冷静に受け止める人もいる。今後、長期間にわたる放出の間、風評の発生をどう抑えるか。県民は国や東電に安全対策の徹底と分かりやすい情報発信を強く求めた。


■「きめ細かな情報発信を」 福島県民

 沿岸部の漁港ではこの日も、漁から戻った漁業者が片付けなどの作業に追われていた。午後1時過ぎ、処理水の放出は始まった。少し波が立っていたが、海の様子はいつも通りだった。

 「半世紀以上漁業に携わっているが、こんなに悔しいことはない。若い世代が漁を続けられるか心配だ」。いわき市の小名浜底曳網漁協所属第三政丸船主の志賀金三郎さん(76)は自船を整備しながら、心情を吐露した。

 起床後、新聞を見て「とうとうこの日が来たか」と心が揺れた。9月1日に解禁される底引き網漁の準備を進める。水揚げ対象の魚種や量が年々増えてきたが、来年6月末まで続く今季の漁には不安を感じている。

 水産物への影響を調べるため、水産庁は魚のトリチウム濃度を測定し、1カ月間は毎日、公表するとしている。最初の分析結果は26日夕に判明する見込みで、水産庁はホームページに掲載する。こうした体制に一定の理解を示す一方、風評への不安は拭えない。「国や東電は若手が操業しやすく、生活しやすい環境を整備しなければならない」と強く求めた。

 放出開始から約1時間が過ぎた午後2時ごろ、新地町海釣り公園で15人ほどが釣り糸を垂らしていた。ルアーなどでカンパチを狙う。町内の自営業男性(68)は海洋放出を「気持ちのいいものではない」としつつ、「復興のためには仕方ない。魚は釣れたら持ち帰り、おいしく食べたい」とさおを振った。公園によると、来場者数に影響はなく、今後も予約が入っているという。

 原発から南に約20キロ離れた楢葉町の岩沢海水浴場ではサーファーの姿が見られた。この日は波の状態が悪く、普段と比べて数は少なかった。神奈川県逗子市の会社員石河内太郎さん(55)は午後1時過ぎに訪れた。愛好者から岩沢海水浴場を紹介され、22日から町内のホテルに宿泊している。「放出自体には反対だが、改めて福島の素晴らしい海を実感した。全国の仲間にPRして、サーフィンで福島を応援したい」と語った。

 大熊町の無職吉田貞則さん(73)は今春、会津若松市から町内の特定復興再生拠点区域(復興拠点)に帰還した。自宅は原発から約5キロ離れた場所にある。周辺の住民はまだ少なく、処理水放出が帰還の足かせにならないか懸念する。

 環境省は当分の間、毎週海水を採取し、分析結果を公表するとしている。「国や東電は何よりも安全第一に、情報を分かりやすく、きめ細かく発信するべきだ。住民の帰還が滞らないようにしてほしい」と訴えた。