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娘の成長、古里再生と共に 「健やかに育ってほしい」 3人の幼子と帰還した山根光保子さん

2023.08.31 10:18
双葉町内で子どもたちと散歩する山根さん。「古里で健やかに育ってほしい」と願う

 福島県双葉町の特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が解除されて30日で1年になった。町内でまちづくりに取り組む一般社団法人ふたばプロジェクトの山根光保子さん(40)は3月末、家族で古里に帰還した。小学1年の長女ら3人の子を育てながら復興支援員として尽力している。子育て世帯が戻ったのは山根さん一家の他に1世帯のみ。子育て・教育環境の整備は大きな課題だ。山根さんは「再生が進み始めた古里を見ながら健やかに育ってほしい」と願っている。


 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故により、山根さんは双葉町から県内外の避難先を経て2011(平成23)年秋、いわき市に移った。2013年、町の復興支援員になり、市内を拠点に活動を始めた。当初、町への帰還は考えていなかった。仕事を通して「双葉に帰りたい」と希望する町民と交流を重ね、思いが変わった。避難指示解除後にふたばプロジェクトの事務所も町内に移り、現在は町を訪れた人々に町内を案内するなどの業務に励んでいる。

 3人の子はまだ小さい。長女さよりさんは6歳、次女寧月(しずき)ちゃんは4歳、三女彩生(あおい)ちゃんは1歳。いわき市内の双葉町立学校や幼稚園に通わせる選択肢もあったが、未来を担う子どもたちに町が生まれ変わっていく姿を見てほしいと思い、町に帰ると決断した。

 山根さんは子どもたちと町内を散歩する際、自身が町で過ごした時の思い出などを伝えている。豊かな自然、温かい人柄…。先に帰還したお年寄りらは「子どもの声が聞こえると、地域に活気が出てうれしい」と喜んでくれる。

 ただ、町内には現在、幼稚園や学校が戻っていない。さよりさんは浪江町のなみえ創成小、寧月ちゃんと彩生ちゃんはともに同町の浪江にじいろこども園に通う。小児科や子どもが集まる施設もない。小児科を受診する場合は、南相馬市まで連れて行く必要がある。子育て環境の充実が求められており、山根さんは「子どもたちが安心して暮らせる場所が整ってほしい」と願う。

 それでも、双葉駅西側に町営の「駅西住宅」が整備され、町産業交流センターにコンビニが開店するなど、少しずつ便利になっている。「住民の優しさに包まれて子育てができる環境がある。帰還を考えている人に子どもと楽しく過ごす姿を見せる立場になれたらうれしい」と前を向く。


■子育て・教育環境の整備課題

 町には現在、学校や小児科がなく、子育て環境の整備が課題となっている。町は町内での学校再開を決め、新校舎を新設する方針を固めた。学識経験者らでつくる町学校設置検討委員会が来年1月ごろをめどに、校舎の場所や再開時期などを盛り込んだ基本構想案を取りまとめる見通しだ。

 町内には8月1日時点で、68世帯86人が暮らす。帰還する町民や移住者が徐々に増える一方、スーパーや薬局がないなど生活環境は十分とは言えない。

 町はJR双葉駅東側に商業施設を新設する。小売店1店舗、飲食店3店舗程度が入る見込みで、2025(令和7)年春の開所を目指している。駅東側のにぎわい創出や、住民の生活環境向上に向けた取り組みが本格化していく。