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豊洲市場「応援の声多い」 本紙記者ルポ 処理水放出後の福島県魚介類 売れ行き変わらず

2023.09.03 09:24
三陸常磐ものを買い求める来店客でにぎわう豊洲市場の夢市楽座=2日午前8時40分ごろ

 福島県漁業の主力である底引き網漁が解禁され、県産魚介類「常磐もの」の流通が増える時期に入った。常磐ものは東京電力福島第1原発事故前から大消費地の首都圏で評価されてきた。処理水の海洋放出後、福島の海の幸はどう受け止められているのか。底引き網漁で取れた海産物が出回り始めた2日、都民の台所・豊洲市場で買い手や売り手の声を聞いた。(いわき支社報道部・吉田雄貴)

 「三陸常磐の刺し身だよ!見ていって!」。小型運搬車「ターレ」が行き交う通路に、店員の張りのある声が響く。水産仲卸売場棟の4階にある「三陸常磐 夢市楽座」は2日午前、買い物客でにぎわっていた。福島、宮城、岩手の水産物を扱う店は東京魚市場卸協同組合(東卸)が7月に開設し、今月からは毎月第1、3土曜に営業している。

 36平方メートルの売り場には放出後に水揚げされた本県産ヒラメや宮城県産カツオの刺し身などが並んだ。鮮魚類は午前8時の開店から2時間ほどでほぼ完売した。東卸によると処理水放出前後で売れ行きに大きな変化はみられない。市場ではメヒカリなど、1日に解禁された本県沖の底引き網漁で取れた魚も例年並みの価格で取り引きされたという。

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 消費者心理に放出による影響はないのか。夢市楽座にいた人に尋ねた。都内などですし店を26店舗展開する「寿司田」仕入部長の石井亨さん(62)は「お客さまが嫌がらない限り、東北産を使い続ける」と話した。普段から福島や宮城の魚介類を仕入れている。「品質が良いし、お客さんにも応援するという声のほうが多いよ」と店での反応を説明した。宮城県産サバフレークを買い求めた都内の気象予報士加藤史葉さん(45)は「処理水は全く気にしていない。応援の意味を込めて福島のものを意識的に購入している」と思いを語った。

 「みんな冷静に受け止めている」。水産仲卸業「亀谷」社長で東卸副理事長の亀谷直秀さん(63)は売れ行きを眺め、つぶやいた。常磐ものは高級魚も大衆魚も品質に優れ、東京の仲卸界では築地時代から評価が確立されていると太鼓判を押す。「一般にもっと浸透すれば、需要が増えて魚もいっぱい取れるようになる」。「それに」と続けて「福島の原発でつくった電気は東京に来てたよな。世話になったんだからね、協力させてもらいたいのよ」と心情を明かした。プロの目に認められる「常磐もの」のブランド力を改めて感じた。

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 今回、話を聞いた人の多くは放出後の県産魚介類の安全性を冷静に受け止めていた。ただ、都内の60代女性は「自分は気にならないが、妊婦や子どもには薦めないかも」と複雑な思いを打ち明けた。

 県漁連は今後、本漁業再生に向けて水揚げ量を増やす計画だ。目標の達成に水を差さないよう、国、東電には処理水放出を含む廃炉の道のりを安全かつ確実に進んでもらいたい。